久々の一日オフで早朝に自主練を終え、ゴロリとベッドに横になり、さて二度寝しようかというのにジャンジャガと耳元で五月蝿く携帯が鳴り響く。

いまにも閉じてしまいそうな重い瞼を擦りながら振動し続ける携帯を開けると画面には名前からの着信が表示されていて、慌てて通話ボタンを押す。

「もしもし!一也電話でるの遅いよー!早くしないと映画の上映時間に遅れちゃうよ?」
「・・・映画?」

ぼんやりとした脳も名前の声で徐々に覚醒されていく。

「もしかして忘れてるの?」

カレー食べに来た前の日に約束してたじゃないと普段と何も変わっていない名前の態度に俺は驚きを隠せない。お互いの「好き」という感情の違いを知った日に、俺達はきっと以前と同じ様に接する事が出来ないのだと思っていたのに。それなのに、名前は何も変わっていない。

「ちょっと!一也ってばさっきからなにボケ〜ッとしてるのよ?起きてるの?聞いてるの?本当に遅刻しちゃうよ?」

早く早くと名前に急かされ、わかったからと電話を切り、考えを纏める暇も無く急いで準備に取り掛かる。

急いで準備を終え、名前のアパートへ早足で向かい、もうすぐ名前のアパートにつくよと連絡しようとしたのだがアパート下の自販機前には準備をとっくに終えて待ち草臥れていたのであろう名前の姿があった。

「名前!待たして悪い」
「もう!遅いよ!この上映時間逃したら一也の寮の門限までに帰れなくなっちゃうんだからね」

頬を膨らませる名前にごめんと謝り、ポケットから小銭を取り出し自販機で名前の好きなジュースを買って渡し、待たしてごめんねともう一度謝る。それで少し機嫌を良くしてくれた名前にそれじゃあ早く行こうかといつもより速いペースで歩き始めたのだが名前が中々ついて来ない。後ろを振り返ってみたり、立ち止まってみるのだが、やはり名前はついて来ない。

「名前。お前な、さっきまで早く早くって人を急かしてたくせに、なにもたもた歩いてんだよ」
「だって、・・・疲れたんだもん」
「まだ歩き始めて五分もたってねーじゃねぇかよ」

目的地である映画館と融合した大きなショッピングモールまであと十五分程は歩かなければならない。

「元はといえば一也が忘れてたからじゃない。いつもみたいに一也が早く名前を迎えに来てくれてたらこんなに慌てなくて済んだのに」

もう足つかれちゃった、と後ろでしゃがみ込む名前に近づき、ごめんねと手を差し出す。

「本当にごめんね。俺が引っ張るから手、繋いで?」

手を差し出した瞬間、名前は不貞腐れた表情から満面の笑顔へところりと表情を変えた。

「さっきまで不貞腐れてたのになんで急に笑ってんだよ。ほら、いくぞ」
「へへへ。一也が手を握ってくれるの待ってたの」
「はいはい」
「一也大好き!」


せめて、何も無かったかの様にと。


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