「名前の作ったカレーはやっぱり美味しいな」

一也は口の中に含んだカレーを飲み込んで笑った。

「来るなら先に言っといてよね」

眉を下げてみせて困り顔を作ってみせたが、本当は一也が急に来ても大丈夫な様にいつも余分に御飯を作っているだなんて絶対に秘密だ。

「朝も昼も夜も寮の飯だと飽きるんだよね。それに、なんか急にさ、名前の作った飯が食いたくなんだよな」

そう言って一也は黙々とスプーンを口に運ぶ。はいどーぞとお茶を差し出すと一也はありがとうと小さく呟いて、やはりカレーを運ぶ手を止めない。今日みたいに一也は何かと理由をつけ寮を抜け出し、名前の家に御飯を食べに来る。

幼い頃は私が一也の家にお邪魔することも頻繁にあった。

当時の私には既に両親はいなかったけれど、一也の家の近所にお婆ちゃんと一緒に慎ましくも幸せに暮らしていた。一也と同じぐらいにお婆ちゃんの事も大好きで、大好きな二人とよくお手玉をして遊んでいた事が鮮明に記憶に残っている。一也はお婆ちゃんには敵わなかったけれど器用に玉を回せていて名前は一度も上手にそれを回すことが出来なく悔しくてよく泣いていたっけ。それでも楽しくて幸せでしかたなかった。両親がいなくても一也のお父さんが良くしてくれていたし、一也やお婆ちゃんがいれば本当に幸せだった。

けれどお婆ちゃんは名前を置いて突然逝ってしまった。

お婆ちゃんがいなくなってしまった事実をまだその頃は受け入れる事が出来なかったし、これからどうすればいいのかという考えや不安よりも、ただ単純に寂しかった。

「遠慮なんてするんじゃない」

一也のお父さんは私に何度も叱って家に来るように誘ってくれたけれど、迷惑をかけてはいけないと幼いながらに思い、家事や自炊の勉強を一人でしたりもした。今まで当たり前に食卓に並んでいたものを、当時の私が美味しく調理出来るわけもなく作ったそれはゴミの様に不味かっただろうに一也は残さず全て食べてくれた。その変わり一也が飲むお茶は大量だった。多分、いや絶対にお茶でそれを飲み込んでいたんだと思う。

冷や汗流しながら名前の料理は美味いぞと幼いながらに気を遣い私を褒めてくれていた一也が大好きだったし、そんな一也の為に料理を上手く作れる様に私は必死で努力した。

あの頃に比べたら自分で言うのもなんだが料理の腕前は格段に上がったと思う。一也の飲むお茶の量がそれを証明している。

「ごちそうさまでした」

一也は両手を合わせて言う。

「おいしかった?」
「うまかった」

いつもの様に私の頭を撫でて一也は使った食器を持ち台所へ行こうと椅子から立ち上がろうとするが、それを制止させて一也を真っ直ぐにみつめる。

「一也といるだけで、名前は幸せだよ」



他にはなにも要らないよ、本当だよ。



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