昼休みや休み時間の間は大抵、御幸や倉持といつも一緒だった。別にどちらから約束をしたわけでもなかったし、昨晩御幸からの電話でしばらく一緒にいる事が出来ないと言われても何も感じなかった。否、多少は不安になったが御幸の事だから部活の用事か何かだろう、きっと大丈夫だと深く考えない様にしていた。

「梓」

いつもより早めに登校し鞄を机に置いたと同時に名前を呼ばれ、振り返るといつもとは違う表情の友人がいた。

「どうしたのよ?そんな怖い顔して」
「どうしたのはこっちの台詞よ。あんたいつも御幸君と一緒だったのに今日は違うの?」
「あー・・・。それは御幸がしばらく一緒にいれないって言われたからで。なんか御幸も用事があるんじゃないのかな?べつに別れたりはしてないから大丈夫だよ」
「別れてないならいいけどさ。今朝、名前ちゃんっていう可愛いこちゃんと一緒に仲よさ気に歩いてたわよ?」
「嘘、でしょ?」
「こんなくだらない嘘つかないから。そろそろ御幸君も教室にくるんじゃない?」

私とはしばらく一緒にいる事は出来ないのに名前ちゃんとはいれるわけ?段々と苛々してくる自分を一度深く深呼吸して落ち着かせる。名前ちゃんは御幸の事が好きだ。絶対に。こんなことで苛々して御幸と喧嘩にでもなったら、向こうの思う壷だ。それにたまたま一緒にいただけかもしれないし。取り敢えず落ち着け私。大丈夫、大丈夫。私が御幸の彼女なんだから。

「じゃあ、また部活終わったら名前の教室まで迎えいくから。危ねえから一人で帰ったりすんなよ」

教室のドアに、名前ちゃんの頭を撫でながら眉を下げ心配そうな顔をしている御幸がいた。

「了解であります。教室でいいこに宿題して待ってるから、購買のプリン後で食べたいな〜」
「わかったわかった。後で買ってやるから、いいこに待っとけよ」
「うん!名前いい子に待ってるから!一也大好き」

名前ちゃんは笑顔で御幸に手を振り、自分の教室へ走って行った。名前ちゃんの幸せそうな笑顔を見て、その幸せそうな会話のやり取りを聴いて、私はとうとう我慢の限界を超えた。

「梓、おはよ」

名前ちゃんとの出来事が無かったかの様に、私に至って普通に挨拶をする御幸に私が声を荒げるよりも先に、先程私を心配して声をかけてくれた友人が叫んだ。

「ちょっと御幸君!あんた梓がいるのに何あの可愛いこちゃんと朝からラブラブしてんのよ!」
「え、なに急に怒ってんだよ。それにラブラブってなんだよ。普通だろ、普通」
「あの会話のどこが普通なのよ!一也大好きって言われてたじゃないの!あれ絶対最後にハートマークついてた感じじゃない!」

友人が私の代わりに怒ってくれている間に多少落ち着きを取り戻せた。大丈夫、大丈夫。落ち着け自分。御幸の彼女は私なんだから。何度も私はそれを自分に言い聞かす。

「ごめんね、ありがとう」
「でも!梓っ、あんたっ」
「私は大丈夫だから。御幸、さっきのはどういうこと?」

私の問い掛けに御幸は一度ため息をつき、名前ちゃんが変な男から付き纏われていて危ないからなるべく一緒にいる事になったと簡単に説明をしてくれた。

「そういう事なら仕方ないかもだけど、梓の気持ちも考えなさいよ!」
「私は大丈夫だから、落ち着いてよ」
「御幸君は梓と名前ちゃんどっちが大切なのよ?梓の気持ちも考えたことある?」

友人の問いかけにめんどくせー、と一言呟いて御幸は教室を出て行ってしまった。



本当は少し期待していた



お前の方が大切だから、ごめんなってあの子みたいに頭を撫でて欲しかった。


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