義母さんから話を聞き終え、電話を切ると同時に酷い動悸に胸をおさえて膝から崩れ落ちた。手から携帯は滑り落ち、大きな音を立て床に転がった。

嘘だ。酷い冗談だろ。だって、さっきまで、名前は俺と一緒にいたんだ。

震える膝にグッと力をいれ立ち上がり、ポケットに財布を詰め込みマンションを飛び出す。

どうやって病院まで辿り着いたのかは覚えていないけれど、病室に駆け付けた息の整っていない俺を義母さんは目を真っ赤にしてギュッと抱きしめた。

「…義母さん!名前は…っ」

抱きしめられた肩越しにカーテンを閉められたベットを見つけ、義母さんを放しそのベットに近付く。一歩近付く毎に動悸は強くなり嫌な汗がだらりと背中を伝う。

深く息を吸い込み呼吸を整え、カーテンをめくり名前の姿を確認する。

名前の顔には、真っ白な布地が被せられていた。

震える手を伸ばし、布地に手を掛けた瞬間、義母さんが俺の手を握った。

「…鳴ちゃんは、見ない方が良いわ」

ううん、見て欲しく無いわ、と義母さんは涙を流し言葉を続けた。

「名前ね、学生時代からずっと言ってたの。なんの長所も無い平凡な自分が鳴ちゃんと付き合えているなんて幸せだって。鳴ちゃんの前では、なるべく綺麗でいたいって」

そんなこと思ってたんだ、言葉にならない程小さな声で呟いて義母さんの前にもかかわらず俺は子供みたいにわんわんと叫び泣いた。

名前は近所のコンビニに一緒に行くのでさえ髪を綺麗に整え、化粧を軽くして出掛けた。それに待ち切れなくなり先に玄関を出て行く俺の後を急いでついてきて、早くしろよちょっとそこまで行くだけなのに何もそこまでしなくてもいいじゃないかとブツブツ文句を言う俺に名前は本当にごめんねと謝り続けた。

「どこで誰が見ているか分からないでしょう?せめて、少しだけでも鳴と並んで恥ずかしくない自分でいたいの」

泣きそうな顔して笑う名前に、俺は何て声をかけたんだったっけ?思い出す事が出来ない自分に怒りが込み上げ、涙は止めどなく流れた。

「…名前は、鳴ちゃんと一緒にいれて本当に幸せだって言ってたわ」

義母さんの言葉に、また俺は言葉にもならない叫び声を上げて泣き出し、ベットの横によろよろと力なく膝をつき、横たわる名前の手を握った。

握ったその手は、幾度となく互いの手を握り指を絡めあった名前の体温ではなく、氷のように、まるで陶器で作られた人形のように冷たくて。

嘘だ、冗談だろ、誰か名前を助けてくれよかえしてくれよお願いだからかえってきてくれと繰り返し泣き叫び、震える俺の肩を義母さんは静かに抱き締めて、鳴ちゃん名前を愛してくれてありがとう、と名前に似た顔で優しく微笑み名前に似た大きな瞳から溢れた涙が頬を伝った。

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