「名前さん!今日から席お隣さんみたいだし宜しくね」

声をかけられ視線を上げる。

「あ、…えっと、よろしくね」

慌ててぎこちなく返事をすると御幸一也はにっと笑って隣の席へ腰掛けた。

それから毎日、休み時間の度に御幸一也は私に話しかけてきた。その話しの内容は薄っぺらく中身の無い話しばかりで私は適当に相槌を打ち頷く程度だった。

「名前さんって、…俺の事嫌い?」

ある日、突然に彼は私にそう投げ掛けてきた。

「え…っと、嫌いじゃないけど」

そう答えると彼は席替えをした日と同じ様に、にっと綺麗に並んだ白い歯を見せ笑った。

「よかった。俺、いつも名前さんに話しかけても一言二言で会話終わっちゃうしさ嫌われてんのかと思ってた」
「全然、嫌いとかじゃないよ!…本当にごめんなさい」
「そんな謝んないでよ」

まあ多少は傷ついたけどさ、と付け足して彼はハハハと笑う。

「御幸君は女の子に人気みたいだし、そんな御幸君と親しげに話したりなんかしてたら周りに何て思われるんだろって怖くて、本当にごめんなさい」

スカートの裾を無意識にギュッと握りしめ、下を向き唇を噛み締める。

「なにがあったかはわかんないけどさ、名前さんはマイナスに考え過ぎだよ。俺そんなに周りに好かれてないしさ。それに俺の方こそ名前さんと親しげに話してたりしたらクラス中の男子からやっかまれちゃうよ」

どう答えていいのかわからず、スカートの裾を握ったまま黙っていると彼の手がスッと伸びてきて、優しく私の頭を撫でた。

「大丈夫」
「…え?」
「俺がこれから名前さんの隣にずっといるから、大丈夫」

私の心を見透かしたように彼はもう一度、大丈夫だと呟いた。

御幸一也の何の根拠も無いたった一言。「大丈夫」。この言葉に私は救われ助けられ支えられた。


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