御幸君と名前ちゃんは世間がもてはやす容姿を手に入れていて校内一の美男美女カップルとして有名だ。そんな名前ちゃんと同じクラスで親友だという事は、なんの長所も短所も無い平々凡々な私の唯一の自慢なのだ。

「もう少しで夏がくるね」

私の問いかけに名前ちゃんはそうだねと頷き、白く細長い指で前髪をサラリとかきあげた。その動作があまりにも美しくて、私は目を奪われる。名前ちゃんは一つ一つの動作が美しくて絵になる。

美術部に所属している私はよく名前ちゃんにモデルをお願いしていたのだが、最近は体調が優れ無いらしく断られがちになっていた。

「今年の夏も御幸君の応援一緒に行こうね」

去年の夏、名前ちゃんと手に汗握りながら一緒に御幸君を応援した事を思い出す。

御幸君に試合を観に来て欲しいと言われたのだが一人で球場へ行くのは心細いから一緒に来て欲しいと名前ちゃんにお願いされ、初めて球場で生の野球を観戦した私は野球のルールなんて簡単な事しか理解していなかったのに、それをきっかけ野球が好きになり夢中になった。

「…今年の夏はもしかしたら応援に行けないかもしれない」
「えっ、どうして?!」
「最近ね、一也と上手くいってないんだ」
「あんなに仲良かったのに…。なにかあったの?」

名前ちゃんは何か言おうと口を一度開いたのだけれど、一つ息を吸い込んで黙り込んだ。

御幸君と何かあったのかもしれない。私は黙って目の前で俯く名前ちゃんを見つめる。口ごもって呑み込んだ言葉をどうするかは名前ちゃん次第だし、私は無理に問い質したりはしない。

「あのね…」
「うん」
「一也はね、きっと亡くなったお母さんと私を重ねてるんだと思うんだ」
「うん」
「私が悪いのに、自分のせいで私がこんなになっちゃったって責任感じて、離れたくても離れられなくなってるんだと思うの」

一也は優しいからと名前ちゃんは泣き笑いの表情になり、その表情のまま黙り込んだ。

「御幸君に直接そう言われたわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「大丈夫だよ。名前ちゃんはマイナスに考え過ぎだよ」

大丈夫、大丈夫と名前ちゃんの細い肩を優しく撫でる。

私が欲しくて堪らない全てを手に入れている筈の名前ちゃんはどうしてこうも自信を持てずに肩を震わせ泣いているのだろうか。

名前ちゃんの泣いている姿さえ美しく綺麗で、私まで泣きそうになった。


僕は君といると泣きそうになるよ。


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