御幸一也は自分の感情を表に出さず何を考えているのか分かりにくく、掴み所の無い人間だと思っていた。つい先程までは。

教室のドアを開け、そのまま私達の机の前まで近づき怒りを露わに机を蹴つり飛ばし、

「くだらねーことしてんじゃねーよ」

声を荒げて怒鳴り、倒れた机に再度怒りを打つ蹴る。

キャップを閉めずに置いていたペットボトルは机と一緒に倒れ、中の液体が床一面に広がった。

声を荒げて怒鳴る御幸に驚き、友達はびくりと肩を大きく震わせた。背中には冷や汗が流れ、凍りついたように動けなくて、ただ異様に喉が渇いて、痛い。

「真剣に付き合わずに女を取っ替えていた俺が悪いんだ。名前は悪くない」

背中をだらりと流れる汗が気持ち悪い。

「名前はそういう事されたり言われても、俺や周りに言わず抱え込んで潰れちまうから、そういうの辞めて。悪いのは全部俺だから」

私に視線を向き直し、御幸は頭を下げた。

「適当に付き合って、傷つけてごめん」

ぐっと口元に力をいれる。じゃないと泣いてしまいそうで、唇を強く噛み締めた。

暫く無言のまま顔を見合わせ、くるりと御幸は背中を向け自分の机へと歩き、机から忘れていたのであろうスコアブックを取り出した。

「じゃあな」

スコアブックをひらりと振り、彼はグラウンドへと向かって教室を出て行った。


僕は君といると泣きそうになるよ。


じゃあな、と私に背を向けて離れていった彼の背中を思い出し、ポロリと涙が零れ落ちた。


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