「名前ちゃんが体育の授業中に倒れた」

以前、名前に同じクラスで美術部に所属しているのだという仲の良い友人を紹介された。その女の子が、二つ隣りのクラスの俺に険しい表情をし、息を切らしながらそう伝えに来てくれた。

ありがとうとニコリと笑って御礼の言葉を述べ早足で名前がいるであろう保健室へと急ぐ。

先生は外出中です、と簡単にドアに貼り付けてある紙をチラリと目に入れ静かにドアを開ける。

保健室に入りカーテンを捲ると二つ並んだ清潔な白いベッドに名前は静かに眠っていた。

「名前」

名前が眠るベッドの傍らに立ち名前を静かに囁く。

名前は色彩に恵まれていないと思う。肌も髪も唇も色彩が乏しく、大きく丸い瞳の黒々さだけが際立ち、儚げで危うい雰囲気を纏っていて、壊れ物注意のレッテルをベタベタと貼り付けたくなる様な女の子だった。

「名前」

再度、名前を優しく呟いて名前の手を握ると閉じていた瞼がピクリと動き、静かにゆっくりと名前は瞼を開けた。

「…一也」
「大丈夫か?」

大丈夫だと笑おうとしたのか名前の頬がピクリと動く。

「大丈夫じゃなさそうだな」
「大丈夫だよ」

名前の顔色は相変わらず悪く、チラリと見える首筋は白く細い。

「もう、ダイエットとか辞めて」

名前は元々余分な脂肪など付いてなく人並みよりも細い体型だったのだが、俺と付き合いだしてからというもの脂肪分やカロリーの少ない食べ物やダイエット飲料しか摂取しなくなり、最近では一緒に昼食を食べようと誘っても何も口にしなくなってしまっていた。

「一也と一緒にいて恥ずかしくない女の子になりたいの」
「充分に名前は可愛いし、それ以上痩せちまったら魅力的じゃなくなるよ」

あんなブスと御幸君が吊り合うわけないじゃない、と嫉妬の野次が名前の心を傷つけ、元々人の言葉に過剰に反応する名前の心も身体もそれが弱らせていった。

俺の色眼鏡抜きで名前は人並み以上に綺麗だし、そもそも始めに好きになったのは俺からで。

「名前が日に日に、亡くなった母親と重なってきて、嫌なんだ」

名前の手を強く握りしめ、屈み込みキスをしてごめんと呟く。

「一也、泣かないで」

何度も、何度も名前は繰り返しごめんねと謝り、ベッドからゆっくりと起き上がり白く細い腕を伸ばして震える俺を抱きしめた。

確かに俺は名前に抱き寄せられているはずなのに、名前の細く弱々しい腕はスルリと放れて何処かに消えてしまいそうで。強く、強く、名前が消えてしまわぬ様に、俺は名前を抱きしめかえした。


僕は君といると泣きそうになるよ。


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