「クラス全員のノートを集めて日直が後から職員室まで持ってきてくれ」

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、担任がそう言って教室を出て行く背中を見て運悪く日直な私は深い溜め息を吐いた。

クラス全員分のノートと担任が忘れていった教卓に置きっ放しの教材を両手に抱え教室を出た瞬間、背中を軽く叩かれ首を後ろに捻り、振り返るとエナメルバッグを肩に掛けた一也がそこに立っていた。

「気付くの遅くてごめん。今日名前が日直だったんだな」
「あ、うん」
「それ、重いだろ?俺が持ってくから貸して」
「自分で持って行くから大丈夫だよ!一也は早く部活に行かないと遅刻して監督に怒られちゃうよ」
「少し遅れても大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ!私が持ってくから」

断固とする口調でそう言うと、一也はほんの一瞬顔をしかめて私が両手いっぱいに抱えていたノートの上半分と教材を荒々しい動作で掴み、一緒に職員室まで行こうと言った。

「ありがとう。けど、本当に部活に遅れても大丈夫なの?」
「大丈夫。ばれないようにコッソリ練習に混ざるし。それに、名前が重そうにしてんのにさ、それ無視して部活行けねーし」

一也の声はいつもより低く、その声色のまま早口で一也は言葉を続ける。

「名前はさ、もっと俺に甘えたり我が儘言っていいんだよ?俺に迷惑掛けないようにいつも我慢してくれてるだろ?」

いつも飄々としていて、その時々の感情を表に、見せず笑顔を崩すことのない一也が、初めて私に対してあからさまに怒りの感情をぶつけてくる。

「…ごめん、なさい」

初めてのそれに自分の顔が強張ったのがわかった。弱々しく掠れ出た謝罪の声と、ノートを持つ手は震えて、目からは涙が溢れそうになる。

「謝らなくてもいいからさ、名前はもっと俺に甘えてよ」
「…うん」
「いつも俺を優先してくれて我慢してるだろ?ごめんな」
「ううん。一也は悪くないから、謝らないで」
「ありがとう。名前はもっと俺を頼ってよ。今日みたいに重くて自分だけじゃ持ちきれない物とかあったりしたらさ俺を頼ってよ」
「けど、一也には部活があるし、…我が儘言って迷惑かけたりして、…一也に嫌われたくない」

私がそう言い終わると一也は大きく溜め息を一つ吐いて、それくらいで嫌いになるわけないだろ、と更に声を低めて言った。

「もっと俺を信じてよ」
「うん」
「簡単に嫌いなんてなれないくらい俺は名前のこと好きなんだからさ」
「うん」
「俺はどんな名前も好きでいられる自信があるからさ」

真っ直ぐに私の目を見て、目を逸らさずに真剣にそう伝えてくれる一也に、ありがとうと呟き目を伏せると、瞳に溜まっていた涙が頬を伝った。

「名前はすぐに泣くよな」

困ったように眉を下げて、一也は親指で優しく私の頬を撫でる涙を拭い、そこに一つキスを落とした。


気に入って頂けたら ぜひ clap

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -