一也は化粧をしている女の子が嫌いみたいで

「だってさ、目ん玉ん中にカラコンいれたりバサバサの付けまつ毛したり、色々と怖ぇーじゃん」

と私が作ってきたお弁当を咀嚼しながら言葉を続ける。

「名前は化粧しなくても充分可愛いんだからさ、絶対しなくても大丈夫だからな」

そう言って一也の手が私の頬を優しく繰り返し何度も撫でて、やんわりと微笑む。

一也に私の事で絶対に哀しい顔をさせないと誓った私は食事の際にカロリー表示を見る事を止めた。はじめは食べた事に罪悪感が溢れて胃にいれた物を吐き出したい衝動に駆られたが、その度に一也の哀しむ顔を思い出しそれを抑えた。

毎日の日課である一緒に屋上で昼食を食べる時も、私が固形物をちゃんと食べると一也は偉い偉い、と頭を撫でて今と同じ様に優しく微笑んでくれた。

「あのね、一也。凄く言いにくいんだけど」
「え、なに?」

優しく微笑んでくれているその表情を歪ませ、嫌われてしまうかもしれない。私は一也の事になると途端に臆病になってしまう。

「…実は私も化粧してるんだよ」

息を吸い込み呼吸を落ち着かせ、一思いにそう告白すると一也はえ、そうなの?と眉を潜め言葉を続ける。

「全然わかんなかった。けどそれくらいの化粧なら許容範囲内だからオッケー」

一也の言葉に胸を撫で下ろし、ホッと安堵の息をつく。

「どこをどう化粧してんの?」

綺麗に整い端正な顔をした一也の顔が私の顔に近付きまじまじと、恥ずかしくなってしまう程に見詰めてくる。

「ファンデーションを薄く塗って、血色が悪いから良く見える様にピンクのチークを重ねて、眉毛を整えてマスカラをしてる程度なんだけど…」

私はパチリと眼を見開けて軽くマスカラでを伸ばし付けた睫毛を一也に見せ説明する。

ふーん、と呟いて一也はまた私の顔をまじまじと見詰める事を再開した。

「そんなにじっくり真剣な顔して見ないでよ」

それに耐え切れなくなり、食べかけていたお弁当に手を伸ばしフォークで玉子焼きを刺し、一也の口元にフォークを向ける。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃん」

照れちゃって可愛い、と付け足し一也はあーんと子供みたいに口を大きく開け、差し出した玉子焼きを一口で食べた。

「ん」
「え?」
「名前も口開けて」

一也はハンバーグを刺し、私の口元に近づける。

「ありがとう」

そう言って私も一口でハンバーグを口に含み、喉元へと込み上げてくる唾液と、吐き出してしまい衝動を一緒に呑み込んで笑った。


僕は君といると泣きそうになるよ。


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