夏大の正式メンバー二十人が発表された。

その二十人の中になんと選ばれたのだが御幸の様にレギュラーポジションを与えられたわけではない。走力をかわれて選出されたのだ。レギュラーメンバーの代走、一つでも多く塁へ。監督の期待に応えられる様、青道の名に恥じない様にいままで以上に努力するしかない。

そして一軍メンバー中心の合宿が始まった。いつもより早く練習は開始され、いつもより遅くに練習は終わる。その練習の質も人数が二十人に絞られたぶん普段とは桁違いにきつい。マネージャーには悪いのだが飯を見ただけで吐きそうになるし風呂を出てベッドに横になると泥の様に眠ってしまうから苗字と付き合い始めたばかりだというのに連絡も全く取れやしないでいた。

そんな中、唯一の救いは苗字とクラスが一緒なことだった。

「いま夏大前の合宿中できつくてさ、返信できなくて悪い」
「全然いいよ。私こそキツい時に連絡しちゃってごめんね」
「我慢さしてごめんな」
「ううん。野球してる倉持君が好きだから」

私は平気だよ、と健気に笑う苗字を強く抱き締めたくなる衝動に駆られるがここは教室だ我慢しろ我慢だ俺、とグッと拳に力をこめる。

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この会話から早くも三日経過した。

練習はやはりキツいし三日経っても慣れやしないし疲労は蓄積される一方で状態抜きで死にそうになる。

「昨日は亜紀ちゃんとカラオケに行ったんだ」
「…へー」
「その前は中学の時に仲良かったことねファミレスでずっと話し込んでたんだ」
「…ふーん」

倉持君さっきから私の話し全然聞いてないでしょう?と頬を膨らませる苗字に俺は会いたくて癒されたくて仕方ないのだが、苗字は俺がいなくても連絡がとれなくても充分に楽しそうで少し悲しくもつまらない気持ちにもなる。

「みんなにね、初めて彼氏が出来たんだって報告したんだ。倉持君に会えなくても連絡がとれなくても倉持君が私の事を好きだって言ってくれた日を思い出すと、寂しいのも我慢できるんだ。…けどやっぱり寂しいって友達に溢したらね、みんな私の相手してくれて、本当にみんな優しいんだよ!」

えへへ、と頬を赤らめて笑う苗字をここが教室だと分かっていても抱き締めたい衝動をとうとう抑え切れず、その小さな肩を強く抱き寄せて、ここ教室だよ?と俺の腕の中でじたばたと慌てふためく苗字を無視し、苗字から微かに香る甘い匂いを胸一杯に吸い込んだ。

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