部活が終わって時刻は二十時。

じゃばじゃばと水道水で顔を洗い終え、顔を上げると一人で校門から出て行こうとしている苗字を見つけた。

「おいっ!苗字!」

叫んで名前を呼ぶと苗字は驚いたのかびくりと大きく肩を揺らし辺りをきょろきょろと見回して俺の姿を見つけて手をちょいと上げこちらに早足で近づいてきた。

「こんな時間まで学校で何してたんだよ?」
「委員会の仕事してたんだけどいつの間にか寝ちゃってた」

ぺろりと舌を出して笑う苗字に俺は断じてときめいたりはしていない。入学初日に立てた誓いを決して忘れはしない。

「もう暗いし危ねェから、送って帰るわ」
「迷惑だろうし大丈夫だよって言いたい所だけど、本当は一人で怖かったんだ」

お言葉に甘えさせて頂きますと素直に笑う苗字に不覚にも胸がどきりと鼓動する。

苗字の家は学校から徒歩十五分と案外近いらしく、別にもう少し遠くても良かったのにとか思っている自分の邪念を飛ばすかのようにぶんぶんと首を降る。それをみて苗字はどうしたの?虫でもいるのと首を傾げて笑っている。

「なんでもねーよ!」
「ほんとに〜?」
「いいから!ほら、いくぞ!」

苗字のスクールバッグを預かりそれを左肩にかけ、二人並んで苗字の歩幅に合わせいつもよりゆっくりと歩く。

「委員会の仕事しながらね、倉持君が野球してるとこ見てたんだよ」

やっぱり倉持君てキラキラ輝いてて広いグラウンドでもすぐに発見できちゃったと続ける苗字の発言に俺は期待してもいいのだろうか。

「…あのさ、毎回思うんだけど苗字って、そういうこと誰にでも言っちゃうわけ?」

俺のこの発言に今まできゃっきゃと笑顔だった苗字が急に真面目な顔して誰にでも言うわけないでしょ、とピシャリと言うもんだから、

「…それって俺の事、もしかして好きとか?」

と、調子に乗った発言を勢いでしてしまった。

苗字の返答を待つのだが暫く無言が続き、あー…俺ってば調子に乗りすぎたわ。もうこの無言の時間に耐えられねェ。いつもみたいに「冗談に決まってんだろ!馬鹿言って悪かったな」と苗字の頭を軽く叩こうとした俺の右手をぎゅっと苗字は握り、顔を真っ赤にして下を俯いて、俺の手をその小さな手で握ったまま、帰ろうかと一言だけ呟いて歩き始めた苗字に今日一番ときめいてしまった事を観念して素直に認めるとしよう。


初恋は実らないなんて言ったのは誰?

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