女という生き物は何故だか新発売とか期間限定だとかいう売り言葉にめっきり弱い。

俺の目の前に居座っている苗字もそのようで今朝コンビニで買ったという甘ったるそうなジュースをストローでちゅーちゅーと吸い上げ幸せそうな顔して頬が緩みきっている。

「さっきからなに睨んでんの?あ、さてはこの新発売のジュース欲しいんでしょ?」

一口いる?と苗字はジュースを俺に向け差し出す。

「いらねー」
「えー!なんでー?すっごく美味しいのに」
「そーゆう甘ったるそうな飲み物すきじゃねえ」
「せっかく一口あげようと思ったのに!後から欲しいって言ってもあげないんだからね!」

ぷくりと頬を膨らませた苗字は俺を一度睨んで、白く細い喉をこくりこくりと上下させ、またストローでジュースを吸い上げ始めた。

苗字は間接キスとか絶対に気にする様な奴じゃないことは分かっているけれど、苗字のこういった無自覚の行動に惑わされ、惚れちまう野郎は多いのだと思う。

「・・・お前って、態とそういう事してんの?」
「そーいうことって何?」

首を傾げ、苗字はきょとんとした顔をして何のことだか本当に理解できていないみたいだ。

「・・・なんでもねーよ」

大きく溜め息を吐いて苗字から目を逸らす。それから暫くぼーっとしていると自分の名前を呼ばれ、声のした教室のドアに目を向けると御幸がチョイと手をあげて近づいてきた。

「今日の部活は監督が会議でいないから自主練だってさ」
「了解」
「ん」

御幸は簡単に俺との会話を終わらせ、隣の席に座る苗字の方へとクルリと体を回転させ、椅子に座る苗字と目線が合う様にその場にしゃがみ込んだ。

「苗字ちゃん。なに美味しそうに飲んでんの?」
「御幸君!あのね、これ新発売のジュースなの」
「美味しい?」
「うん!あと少ししかないけど御幸君もいる?」

御幸へと差し出されたジュースを咄嗟に苗字の手から奪い取り、残り少なくなったジュースを勢いよく全て吸い上げる。口内から鼻腔にかけて甘ったるい苺の味と独特の香りが充満する。

「あー!!!倉持君さっき甘ったるいの嫌いだから要らないって言ったくせに!」
「急に喉乾いちまったんだよ」
「だからって奪い取って全部飲み干さなくてもいいじゃん!御幸君にあげるぶん無くなっちゃったじゃんか」
「御幸には俺が後から同じの買ってやるからいいんだよ!」

御幸は俺と苗字のやり取りを見て、気持ち悪くニヤニヤと笑う。

「えー。俺は倉持から貰うジュースより苗字ちゃんから貰ったジュースが飲みたかったのになあ」
「うるせーぞ」

じろりと御幸を睨むと、御幸はまたニヤニヤとして倉持って分かりやすいのなと俺にだけ聴こえる声量で呟いた。

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