いつもよりだいぶ遅れて登校してきた苗字を見て俺は目をぎょっとさせた。

「どしたんだよ!その足」

苗字の右膝は包帯でぐるぐる巻きにされ、松葉杖をつきながらひょこひょこと足を引っ張り席についた。

「家で両手に荷物抱えて階段上がってたら踏み外して転げ落ちちゃった」

えへへと苗字は笑ってはいるが慣れない松葉杖にぎくしゃくとしていて、見ているこちらが痛々しく思うし色々と不自由そうだ。

「苗字って、やっぱり鈍臭いよな」
「失礼な。心配ぐらいしてくれてもいいのに」

苗字は頬をぷくりと膨らませる。自業自得だろ、と膨らましている頬をひっぱる。

「いたたた!こういう日に限って朝から移動教室だしさ。化学室まで遠いし最悪だよ」

苗字はブツブツとぼやきながら、がさがさと机の中をあさり教科書やノートを取り出して松葉杖を持ち椅子から立ち上がる。

「化学の先生に、移動するのに時間かかるから少し遅れるって伝えておいて」

松葉杖を使い両脇に教科書やらを挟み苗字はひょこひょこと歩き出す。

「そんなちんたら歩いて移動してたら授業終わっちまうぜ」
「もう!いいから倉持君は先に行ってて!」

苗字は声を荒げてはっと我に返ったのかごめんと小さな声で謝る。

「あっ、…ごめん倉持君。慣れない松葉杖に苛々して八つ当たりしちゃった」

ばつが悪そうに下をうつむく苗字の額を叩く。バチリといい音が鳴った。

「いたっ」

苗字は額をさすりながら、苦笑する。

「教科書とかノート貸せよ。お前また松葉杖引っ掛けて転けそうだし一緒に行く」
「え?!倉持君まで授業遅れちゃうから本当にほって置いてくれて大丈夫だから!」
「じゃあ、苗字をおぶって化学室まで行く」

それは絶対に嫌だと苗字は首をぶんぶんと勢いよく振る。

「なんで嫌なんだよ」
「だって絶対に重いって言われちゃうもん」
「言わねーよ」
「絶対に言う。最近太ったんだもん」
「どこが太ったんだよ。ガリガリじゃねーか。もっと太れよ。それに野球部の腕力舐めんな」

それでも嫌だと苗字は頑なに拒否する。

「じゃあ教科書とか荷物だけ持たせて。俺が勝手に心配してるだけだから」
「…」
「苗字?」
「…ありがとう」

お礼を言った苗字の目から溢れそうになっていた涙を指で拭う。

「おう」

二人並んでゆっくりと化学室までの道を歩いた。

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