「ねえねえ、あんたって御幸君以外に友達いないわけ?友達になってあげるから御幸君と私の仲をとりもってよ」

席替えをして俺と席が隣りなった名前は左端の口角を上げ、ニヤニヤと気持ち悪い顔して突然そう言ってきた。

「悪りぃけど、お前みたいな友達いらねーから」

これが俺たちが交わした初めての会話だった。

それから毎日名前は俺に御幸のタイプだの御幸に彼女はいるのかだの御幸の好きなものだのしつこく聞いてきた。

「御幸御幸うっせーな!面倒くせぇし自分で聞けよ」
「恥ずかしくて自分で聞けないから倉持に聞いてんじゃん」

あ、倉持そのカレーパン頂戴と名前は馴れ馴れしく俺の食べかけのカレーパンをぶん取り頬張った。

「てめぇー、勝手に食べんじゃねーよ」
「うわっ!このカレーパン甘過ぎなんだけどー!最悪!」

人のカレーパンぶん取ったくせにブツブツ文句まで言いやがって。毎日毎日、名前に俺は苛々させられた。なんでこんなに俺は名前に苛々とさせられちまってんだ。(きっと、いや確実にこいつが耳触りな声でうるさいし、あつかましく纏わり付いてくるからで、別に御幸御幸ってるから苛々してるわけじゃねーからな。絶対に)



「倉持ーーー!!!御幸君に付き合ってって告白されちゃった」

朝練を終えて教室に入るなり名前は俺に勢い良く飛びついてそう言った。相変わらずキャーキャー耳触りでうるせーな。

何かの間違いじゃあないのか早く俺から離れろと名前の頭を叩こうとしたのだが名前は頬を染めて恥ずかしそうに、倉持に話し聞いてもらってたお陰だね、ありがとうと素直に御礼を言われた俺はどうしようもなくなったその拳をギュッと握りしめた。

「倉持と話してる私を見て、御幸ってばどんどん気になってきちゃったんだって。倉持、本当にありがとう」
「・・・別に俺は何もしてねーし」
「もう倉持にしつこく話しかけたりしないから安心してね」

そう言って名前は俺に手を振り、遅れて教室に入って来た御幸の方へと笑顔をみせ歩き出した。

これで明日から静かに学校生活を送る事が出来るし、教科書忘れたからみせろだの、俺が食べかけていた昼食のパンを毎日奪われる事も無くなったわけだ。名前に苛々させられていた学校生活も今日で終わりだ。きっとこれから名前は昼食は御幸と食べるだろうし困った時に頼るのも俺じゃなくて御幸に頼るんだろう。

別に寂しいと思ってるわけじゃない。御幸御幸うるせーあいつが俺から離れていくのが寂しいだなんて絶対に思ってなんかいないし御幸に嫉妬している自分がいるだなんてあるはずはないんだ、絶対に。



あなたの幸せがただなんとなく悲しかった。



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