「一也は絶対に私からはなれたりしないでね」

名前は俺の肩に寄りかかり、今にも消えてしまいそうな声で呟いた。嗚呼、絶対にはなれないよと名前の手を強く握る。

「約束だよ」

真っ直ぐに俺を見てそう言った名前の眼球は潤んでいて、その大きな瞳はいま現在、名前の目の前に入る俺ではなくクリス先輩をずっと想い映し続けているのだろう。

名前とは同じクラスメートで恋の相談相手。クリス先輩に敵うはずなんてないと思っていたのに、気付いた時には手遅れで名前のことを好きになってしまっていた。それでも俺はずっと自分の気持ちを隠し、名前の相談相手を勤め続け、名前が笑っていられるのならと二人の恋を応援し続けた。

「先輩にふられちゃった」

ある日突然にそう言って、嗚咽混じりに泣き続ける名前を無意識に抱きしめていて、もう歯止めがきかなくなっていた。

「名前の泣いて悲しむ顔なんて見たくない。利用でも良いから俺を頼ってくれ」

抱きしめていた俺の首に名前はゆっくりと手を回してごめんねとありがとうを繰り返し、泣き続けた。

それから名前とは曖昧な関係が続いているのだが始めに名前に利用でも良いからと言ったのは自分だし、焦ってこの関係から進もうとは思ってはいない。以前の様に幸せそうな顔して笑う名前が見たいだけで、その笑顔の理由がクリス先輩ではなく俺になるのであればそりゃあ嬉しいのだけれど。

「・・・一也?考え事でもしてるの?」
「否、悪い。もう暗いし家まで送る」

公園のベンチから立ち上がり、名前の手を引く。

「ありがとう」

名前も立ち上がり、俺の手を握る。

「名前、好きだよ」

そう言って名前の頬を撫でると、名前はやんわりと微笑んでありがとうと歩き始めた。


君に届く言葉を僕にください



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