はじまる前の戯れ



「成宮君に聞いてほしい事があるんだけど、少しだけ時間もらって大丈夫?」

嗚呼、やっとこの日が来たか。歓喜で口元が歪みそうなのを隠し平然を装う。

「別に時間は大丈夫だけどさ、名前は耳まで真っ赤になってるけど熱でもあるの?」

大丈夫?と名前の額に手をやると先程より一層耳を赤くしそれが名前の頬にまで広がる。

「え、あっ、熱とかじゃないから大丈夫っ。教室じゃあ話しにくいから、屋上で聞いてくれる?」

にまりと笑っていいよ、と頷き先に教室を出て行った名前の後ろをついて歩き屋上までの階段を登る。

前を歩く名前からはサラリとした気持ちのよい香りがして、これからこの香りを纏う名前に告白されるシチュエーションを思うと心身が浮き立つ様な高揚感に襲われた。

屋上にたどり着くと名前は俺に向き合い、こんな所に連れて来てごめんねと言って下を俯きスカートの裾をぎゅっと握りしめた。相変わらず耳まで真っ赤にして、嗚呼、なんていじらしく可愛いのだろうか。

暫くの沈黙が続き、名前は恥ずかし気に顔を上げ、静かに一つ深呼吸した。

「あのね・・・、」
「うん」
「私、成宮君の事が好きなの」

顔が緩みきってしまいそうになるのを隠し、平然を取り繕う。やっと、やっと名前に言わせてやった。その言葉をどれだけ待ち望んでいたことか。

「・・・それで?」
「よかったら付き合ってほしいの」

真っ直ぐに名前は俺をみつめて言葉を続ける。

「成宮君が沢山の人に人気で私のことなんて同じクラスメートの一人としか認識されてないっていうのもわかってるつもりなんだけど、それでも成宮君のことが好きなの」

冷静に、平然を装い声が上ずらないように気をつける。

「いつから俺のこと好きになったの?」
「好きだって、自分の気持ちに気付いたのは最近なの」

俺は名前を初めて見たときから好きだったよ。一目惚れだったんだ、俺の方が先に片思いしてたんだよ、なんて絶対に言わないし教えてなんかやらない。

席替えのクジ引きも名前の隣りの席の奴とコッソリ取り換えてもらったことも、わざと教科書を忘れて見せてもらっていたことも絶対に秘密だ。

「うーん。どうしようかなあ」

ずっと片思いさせられてたんだからこれくらいの意地悪許してくれるよね?

「俺って人気者だし。可愛いって有名なチアのこに告白されたの保留にしちゃってるしなあ」

俺の一言一言に泣きそうな顔してスカートをの裾を先程よりも更に強く握りしめ、歯をくいしばる名前の顔をあと少しだけ楽しませてもらってから抱きしめてあげるからさ、あと少しだけ俺の意地悪を許してね。


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