ただ、雨に濡れながら公園で座っていた。これから自分がどうしていけば良いのか分からず、途方に暮れ、寒さで背筋がぶるりと奮え空腹で腹の呻きが響いた。

もう何日も碌なものなんて口にしていない。このままでは死んでしまう。本能的にそう思い、台所のごみ箱に捨てられていたパンを必死で食べた。それが見つかってしまい、蹴られ叩かれ、罵声を浴びせられ外に投げ出されて今に至る。

「おい。大丈夫か?」

急に雨が止んだと思ったら、コンビニの買い物袋を持ったジャージ姿の男に傘を差し出され声をかけられた。寒気が足元から這い登り、軽い目眩はするし大丈夫と言える状態では無い。

「お前、血でてんじゃねえかよ」

叩かれた時か、蹴られた時にでも着いたのかもしれない。

「こんな所にいたら風邪ひくぞ。家に来るか?」

私は彼の提案にこくりと頷いた。彼の住むアパートにつくなりそこで待ってろよ、と彼は言い玄関で待つ私に部屋から持ってきたタオルでガシガシと勢い良く私の濡れた頭を拭いてくれた。それから部屋に入ってパンと温かいミルクを食べさせてくれた。

「こんなもんしか出せなくて悪いな」

買い物袋の中身を冷蔵庫に入れながらそう言い、彼は私を見る。私はその謝罪の言葉に対し勢いよく首を横に振る。こんな汚れた私には充分過ぎる優しさで、彼が助けてくれなかったら、大袈裟なんかじゃなくて私は生きていけなかったと思う。

「そんな勢いよく首振ったら骨、折れちまうぞ」

そう冗談を言って笑い、お前は可愛いなと呟き。彼は手を伸ばして私を撫でた。その大きな手は安らぎを与えてくれて、清潔な石鹸の匂いが微かにした。

目を覚ますと朝になっていて、彼に抱きしめられていた。彼の全て温かい。体を動かすと彼はピクリと瞼を動かし目を覚ました。どうしよう。彼を起こしてしまった。悪い事をしてしまった。前のようにきっと殴られる、そう思ったのに彼はおはようと優しく呟いて私を抱き寄せた。

私が朝ご飯を食べている間に彼はジャージからラフなTシャツとデニムに素早く着替えた。

「大学行ってくるな。出来るだけ早く帰ってくるから、部屋で大人しく待ってろよ」

分かったと頷き、玄関まで彼を見送る。

「いってきます」



ヒトに焦がれた猫


彼が玄関を出た時に初めて恐怖でしか無かった人間になりたいと願った。


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