「藤くんにはわたしじゃなくたって他の子がいるじゃない」

前日に台本を書いて準備しておいてたとかそういうわけではなかった。なのに、なのに自分の口から前もって用意されたかのように自然にこぼれ落ちていく、それ。胸のつっかえが取れて清々しい気分になったのは事実。でも目の前の藤くんがその言葉をどう思ったのか考えたら胸が酷く痛んだ。後悔のほうが大きいかもしれない。

藤くんの周りで女の子たちがきゃあきゃあ言ってるのを見ることがいい加減辛くなった。わたしは仕方がないことだと充分知っているはずだった、だって藤くんはあの通りかっこ良くてわたしが好きになるずっと以前から山ほどの女の子たちをとりこにしてやまなかったのだから。でも心の奥のわたしはいつもいつもその光景を無力ながらに拒絶していた。それが今やっと外側に溢れだしてしまったのだ。

「それ、本気で言ってんのか」

藤くんが苛立ちの籠もる声色で言う。わたしは怖くなって泣きだしそうだったけれどなんとか目の奥に力を入れてこらえることができた。強張っていた口を無理矢理動かす。

「藤くんのこと、好きな子ならたくさんいるよ。わたしより、可愛い子だってたくさん、」
「んなこと知るかよ!」

とても大きな声だった。周りには人がいないからしんとして、なおさら耳に響いた。わたしはどうしようもなく藤くんが怖くてスカートの端を震える手で握りしめる。藤くんはわたしをまっすぐ見ていた。わたしは見つめ返すのをためらってつま先に目をやる。


「お前もおれの気持ちなんかおかまいなしかよ、一番一緒にいたい奴といさせてくれねえのかよ」

苛立つ声から一変、切なさを含んだ掠れた声が耳の中で木霊した。「もういい」藤くんがすっとわたしの横を通り抜けて行ってしまった。その一瞬藤くんの匂いが風に乗って鼻腔に届いたから涙が溢れだした。いつも安心するその匂いが、今はどうしようもなく辛くて泣くしかなかった。とても、後悔した。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -