あなたの大きな手とわたしの小さな手を重ねる。ぴたりと、境界線がなくなるくらいに。
見えない何かに強く祈る。この手がどうか一生離れませんように、と。



数十分前におやすみという言葉を交わしたばかりなのに、非力で愚かなわたしはその姿を今にも夜の闇に見失ってしまいそう。骨ばった手に、頬を寄せる。心地よい暖かさと匂いにじくりと胸が痛んだ。愛おしくかんじることと苦しむことは紙一重だ。深く息を吐き、やり切れなさを、胸の奥に沈めた。

あなたは、声を漏らして、身じろぐ。そして寝返りをうとうとする。わたしは慌てて首に手を回し、子どものようにしがみついた。背中を見るのは昔から好きじゃなかった。仕事にいってしまうお父さんの背中とか、ひとりですすり泣いてるお母さんの背中とか、追いかけっこで逃げていくたくさんの友達の背中とか。

あなたのその広い背中は好きだけど、でも好きじゃない。夜はこわいから。
ひとりになるのはこわいから。
追いていかれたら生きていけないから。

強い力が、わたしの手を包み込む。ぎゅっと、隙間なんかなくて、このままあなたの一部になれるんじゃないかと期待してしまうくらいに。

「ばかだな。どこにも行かねぇよ」

耳元に聞こえるまっすぐな声。どんな神様の言葉よりも暖かくて有難くて、大切なものだと思った。愚かなわたしはあなたの信者だ。救いを求めることしかできない、あわれな信者だ。その長い腕が、ぽたぽたとこぼれた涙ごとわたしを抱きしめる。頭上からは、また、規則正しい寝息。それはそれは、世界で一番神聖な。

(愛するということはなんと寂しいことなのだろう。)


わたしは今日も眠れない。





よい子は眠れ
2013.5.23





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