藤くんが柔らかそうなベッドの中ですやすや眠っている。まるで一枚の絵画のようなその光景にぼくはとてもうっとりしてしばらく目を離すことができなかった。藤くんは綺麗だ。だからぼくは彼が好きなんだと思う。そっとベッドに近づいて藤くんの唇を指でなぞる。絵なんかじゃない、本物の光景。心臓が高鳴る。時間が止まる。世界にはぼくらふたりしかいない。

思いきって唇を近づけてみた。その唇にキスをしたくなったから。藤くんの生暖かい寝息がぼくのかさつく唇に触れる。途端に夢見心地でいた頭の温度が下がった。急にこれがいけないことだと現実のぼくが喚いているのが聞こえた。即座に顔を離して安心したのもつかの間、いきなり右腕を強く捕まれる。呼吸が、心臓が止まる。汗が滲み出る。藤くんがいつの間にか目を開けて、ぼくを見ていた。

「藤くん、起きてた、の」
「お前それでも男か」
「え…」
「一度しようって思ったんならやり通せっつってんだよバカ」

怒鳴るような口調で告げたかと思えば次にはもう藤くんは目を閉じて数秒前と何一つ違わない状態に戻っていた。「寝たフリしてやるからやり直しな」風が吹いたら揺れそうなほど長い睫がぼくをどうしようもないところまで誘い込もうとしてる。藤くんが言うやり通さなきゃいけないことがなんなのかなんてよく分かっていたのだけど、ぼくはただひたすらチキンなので「ごごごめんなさい」と叫び保健室から一目散に逃げ出すしかなかった。

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