君がいれば



戦いには常に相性があるもんだが、なまえの術は万能すぎていた。故にたいていの任務は一人でこなす。そうしている内に、いつしかなまえは一人でいるようになった。


皆はなまえを忍らしいと言った。それでいて綺麗であると。これでもう少し愛想が良ければな、と。でもオイラはそんななまえも嫌いじゃない。むしろ好きだった。

それに、オイラは知っている。オイラだけは、分かってる。

なまえの、本当の…





「お前も物好きなヤツだな」


「なんでだよ?」


「あんな高嶺の花みたいな女が、お前に振り向くとは思えないな…それに、無愛想だしよ…どこがいいんだか」



カタカタと傀儡独特の音がなる。サソリの旦那が傀儡のメンテナンスをしている音だ。今度の任務の打ち合わせをしていただけなのだが、いつの間にか世間話になってしまっていた。



「またそれかよ、旦那はいいよな…より取り見取りで」


「別に顔だけじゃねぇだろ、落とす方法なんて。それにどうせ生身になるには変化するしかねえからな」


「顔は認めるんだな」


「ああ、もちろんだ」



出たよこのナルシスト発言。でもまあ、確かに顔はいいし反論したら何されるかわかんねぇからオイラは何も言わなかった。



「なまえはさ、昔はもっと表情あった」


「そうか?あんまり今と変わらなくないか」


「…旦那が知らないだけで、オイラといる時はあったんだよ…うん」



まあなんでもいいけどよ、と旦那が立ち上がった。どうやらメンテナンスは終わったらしい。



「あいつを狙うやつなんて、この組織にいくらでもいるぞ…どいつもこいつも、飢えてるからな」


「飢えてるって…」


「男なんてそんなもんだ、金がかかるって角都に言われるから遊郭やらに行かないだけでよ…まあなまえの事は暁の奴らも、純粋に好きみたいだけどな。あいつは…美人だしな、やっぱ」


「へえ、旦那は?」


「あいつは良い女だ。あえてあげるならあの程よい筋肉のある腰のラインが…」


「でたよ…あんた、だから発言がおっさんだって言わ…」


「何か、言ったか?」


「……いえ、何も…」



目の寸前で止まった毒付きクナイから一歩下がる。旦那の冗談は冗談に聞こえないから怖い。



「まあ…オイラだって、人並みに欲はあるけど…でも、そんなことでなまえに嫌われたりしたら後悔することになるだろ」



第一、昔から一緒にいたから組織の中で割と話せる位置にオイラがいるってだけなのに…



「稀な男だな、お前は」





「デイダラ、これリーダーがあんたにって」



サソリの旦那との打ち合わせを終わらせ、リビングで二人で一休憩とっていた時。なまえがそう声をかけてきた。



「次の任務に役立つから持っておけ、って言ってたわよ」


「ああ、いつもすまねぇな」



なまえはいつもリーダーの使いとしてオイラのとこに来る。おかげで、この時だけは昔みたいに話せている…と思う。サソリの旦那は気をつかってくれたのかいつの間にかリビングからいなくなっていた。

代わりに入れ違うように鬼鮫の旦那が、夕飯の支度のためかキッチンへ入って来た。続けてイタチも入って来て、冷蔵庫に食材を詰めて行っている。今日の買い出し担当はあの二人だったようだ。



「…なあ、なまえさ…」


「何?」



そんな二人を遠目に見ながら、リーダーからだと言ってなまえが差し出した巻物を受け取った。言葉の続きを言えば、それまで無表情だったなまえの顔は少しだけ驚いたような顔をして口を噤んでいた。



「一人で寂しくないのか?」



デイダラが突然そんなことを言うから、私は一瞬だけ返事に困った。一人?別に一人になったつもりなんて私は無い。ただ皆と話す方法が、よく分からなくなって来ただけよ。それに、



「…角都とか、すぐに相方殺しちゃうじゃない。だから少し怖くてあまり話さないようにしてたら…ほかのメンバーと話す機会が減っちゃっただけだよ」


「…なるほどな」



それだけ言うと、デイダラは何故か笑っていた。そんなことしなくてもなまえは強いだろ、と笑っていた。



―別にそんなことないし


―え、ほんと!?私って強い!?



浮かんだ台詞はどちらも声に出すことはなかった。私は反射的に目の前の笑顔に、背を向けた。イタチと鬼鮫が不思議そうに私を見ているのが分かり、今度は下を向いた。



「私、寂しいなんて思ったことない」



なんでだ?と後ろからデイダラの声がした。その声に答えるように、私は私が知っている限り最高の笑顔をデイダラに向けた。



「あんたがいるじゃん」



照れたような笑顔のままなまえがリビングから出て行った。そんななまえに対してオイラは間抜け面で見送ることしか出来なかった。

久しぶりに見た、なまえの表情。オイラは昔からあの笑顔を知っている。


あれはきっと、多分



「……デイダラ?なまえさんと何かあったんですか?」



どうやら鬼鮫の旦那とイタチは見れなかったようだ。いや、見ていなくて良かった。オイラだけ、知っていれば良い。



「…なまえはやっぱ、良い女だな…」


「……はい?」



なまえが言った言葉の意味を、そしてなまえが持って来る巻物達の意味を、


オイラが理解するのはすぐ先の物語。





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「10000Hit」でつくってやめた作品。せっかくなのでこちらに載せました。






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