死んだ、みんな死んだ
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺した。
それだけが生きている理由なのだとそう信じて。
頬に着いたもはや誰のものかも分からない血を拭い、そして眼前にいる少女に目をやった。
カタカタと肩を震わし、涙を溜めながら、零さまいと我慢しながらオレを見るその目は、最高に美しかった。
なんで飛段が、と小さく呟いた。その答に任務と言えば嘘になるし、自分の意思だと言っても嘘になるであろう。
「残念ながら、」
鎌に付着した少女の血を舐めとりながら、自分でも驚くほど低い声で言った。
「オレはお前が思ってるようなヤツじゃない」
「オレとお前じゃ、一生分かり合えない」
「オレは、お前らとは違う」
足の裏の血で、綺麗に円を描いていく。少女はそんなオレを黙って見ているだけだった。
「飛段は、優しかった」
「あたしを好きだって言って」
「いつも、優しかった」
少女はまだオレを信じていたいらしい。なりふり構わず殺された周りの屍のように自分も殺されるのではないかという恐怖を覚えながらも、少女は信じたいらしい。
オレが悪いんだ。この国の大名の娘と知りながら、愛してしまったオレが。
「そんなの、決まってるだろ」
「お前といれば、動きやすい」
だから、お前だけはジャシン様に捧げてやろう。
「利用してたの」
「最初から、あたしを」
そうだ、と言えばついに少女は瞳から涙を零した。
たまらなく、美しかった。
「なまえ」
細い手首を掴み、円の中に引き寄せる。いつものように抱きしめてやると、少女は戸惑っていた。
逃げだそうとする少女の背をしっかり抱き、反論しようとする口を口で塞ぐ。涙が混じって、塩の味が少しした。
「なまえ」
「愛してる」
自身の背から鋭利な鉄を突き刺す。少女の腹に突き刺さる寸前で、少女の口から血が吐き出された。
「痛い」
「痛いよ」
「痛いよ飛段」
顔を上げた少女は、見たこともないオレの姿に驚き目を丸くしていた。吐き出されたその血を舐めとり、また強引に口を塞ぐ。
「かわいい」
「綺麗」
「壊したい」
やがてぐったりと息だけし始めた少女を円に寝かせる。虚ろな目でオレの姿を認識すると、少女は微かに声を発した。
「それでも」
「好きだよ」
なんてことはない。今まで何千何百と殺してきたヤツの一人になっただけだ。
それなのに消えないこの痛みを、人は何と呼ぶのだろう。
オレには一生、分からない。
死んだ、
みんな死んだ
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暁、またはジャシン教から何らかの任務を受け、いずれ殺さなければならない人に感情を持ってしまった忍というか人間というか。
私が思う原作の飛段は、真剣に人を好きになってもどこかでセーブをかける、そういうタイプの人間です。いつか離れる(死ぬ)なら深くまで行って後悔するなんてバカらしい、という感じの。
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