溺死寸前
「好きなんだけど」
「…はい?私…ですか?」
お前しかいねぇだろ、と言い放った彼は私からの視線から逸らすように顔を下へと向けた。
周りの雑音が聞こえなくなって来る。彼に気をとられてばかりで、何も耳に入って来なかった。ずっと好きで仕方なかった人に好きだと言われたら、誰しもそうなるのかもしれない。
「うん…私も好きだよ」
そう言えば嬉しそうに彼は顔を上げた。
それから数日が経った。どっか出かけよう、と早速デートのお誘いを受け一緒に道を歩いていた。
隣の赤髪はなんだか落ち着かないようすで、歩く度にそのふわふわとした髪が揺れていた。私が初めてなわけじゃないでしょ、と言うと少し言葉を濁した返事が聞こえてきた。
「まあそうなんだけどよ…なんていうか、…今までと違って緊張するっていうか…うん…頼む、こっち見んな」
また私の視線から逃げるように、彼は左側、つまり私のいる方とは反対側へと顔を向けてしまった。嫌なら仕方ない、と私は気にせず歩き続けた。
「あ……あのさ」
「んー…?」
声と共に左手に感じた感触。ふと見ると、サソリの手が私の左手を右手で握りしめていた。それも幼い子供が、母親の手を握るような弱々しい力だった。
はいはい、とその手を絡ませて握り返せば、彼の頬は髪色と同じように赤く染まっていく。そして今度は力強く私の手を握るから、ついに私は笑ってしまった。
「ちょ、何笑ってんだよ」
「ごめんごめん、なんかサソリが可愛くて」
「は、はあ?かわいいとか言…」
すきありとばかりにちゅっ、とわざとリップ音をたてて頬にキスをすれば、さらに彼の頬は赤くなる。
「顔真っ赤」
「う、うるせぇよ!!」
可愛い、可愛い、私の彼氏。
こんなに可愛い人が果して私の彼氏でいいんだろうか。
「サソリ」
「なに」
「可愛い」
「殴るぞてめぇ」
その言葉とは裏腹に強く握られた私の左手。
今度はかっこいいって言ってあげようかな。
溺死寸前
君になら溺れてもいいかな、なんて。
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現パロじゃなくても、サソリさんのほっぺは最高級素材を使ってるからきっとぷにぷに。
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