3.焦燥

(play板に投稿)
(お借りした方→ソレイユさん)
















カツ、カツ、カツ


甲板を歩く音が聞え、その音がぴたりと後ろで止まる。澄んだ心地の良い低音の声が名を呼ぶ。それが海の音と混ざり、ゆっくりと心に落ちる。
何も返事がないのに、怒る事も、再び声を掛ける事も、ない。

「……オレの音、聴こえますか」

ソレイユ殿。
振り返り尋ねる。彼の銀髪が風になびいて綺麗だと思った。彼はオレの聴こえない音を聞く。どうしたら聴こえるか、どんな風に聴こえるか尋ねた事があるが、今のオレには難しく理解出来なかった。
問いに、是と答えられ頬が弛んだ。気付かれてるなら…この人になら話してみてもいいかなと思った。

「考えるのです。オレはこの船に乗って何か変われたのか、と」

視線を煌めく海に戻す。今、どんな表情をしているかわからないが、恐らく情けない…迷子にでもなったような顔をしている気がして見せたくなかった。日を浴びて煌めく海はあの時と変わらないのに、オレの心はこうも違うのかと虚しさを覚えた。

「此処にいて、色々な方と出会い話が出来て助け合って…そんな事、数少ない経験しかないオレにとって良い経験に、良い刺激になったと感じています。……しかし、このままでいいのか、自分の理想に近付けているのか…思わずにはいられません」

戦場と化した町に翻るコート、気品ある後ろ姿…オレはまだあの背中を追っている。悔恨も憎悪もなく、ただ憧憬の念を抱いて。
小さくスクロースが鳴く。心配するような小さな元気のない鳴き声。

「………私は、君の過去はわからない。」

ソレイユ殿の声が響く。

「だが、…環境が変われば、よくも悪くも変化が訪れる。それは人それぞれだ。焦る必要はない。焦りは禁物というだろう…君の音が狂い、身を滅ぼしてしまうからね…」

振り向けばポラリス殿が足元に駆け寄り励ますかのように鳴く。そっと抱えあげ頭を撫でれば気持ち良さそうに目を細めた。

「…何を焦っているか…わからないが、君は君の音を、時を、大切にした方がいい。」

もう言うことはないというかのようにソレイユ殿は目を伏せた。
ざざあ、と海の音が聴こえ、ポラリス殿とスクロースが交互に鳴いた。
ふと海に視線をやる。煌めきは変わらない。しかしあの虚しさは嘘のように消えていた。

「ソレイユ殿」

向き直り、ポラリス殿を地に降ろして、

「……よろしければ、一曲お願いしたい」

ようやくのきちんとした笑顔で頼んだ。

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