序章

(※流血、死の表現あり)












銃声。悲鳴。笑い声。乾いた空、音、人。しかし反対に地は潤う。人の血や涙。そして狂気、絶望…哀しみ、憎しみ、快楽…人々の感情が入り交じる混沌とした空気。

地獄だと、思った。


母がぼくを抱え啜り泣く。でもしっかりと守ろうとする意志があり、弱くも強くも感じる母の背中に手を添えた。
父は家を出たきり帰って来ない。きっともういないのだと幼いながらにわかっていた。それをわざわざ母に聞くような真似もしなかった。


『………―――パァンッ』


乾いた音が響くと強く抱き締めていた母の手がするり、と地に落ちた。崩れ落ちた母の後ろに銃口を向ける男。ニィっと口角を上げる姿を見て、自分の死を悟ってた。でも何も感じなかった。「ああ、父さんと母さんの所に逝くのか」と他人事の様に感じた。
だが、衝撃も傷みも感じる事はなかった。

「ぐあ、あ…」


銃口を向けた男の身体が浮いた。母と同じ赤い赤い血が流れて出るそこは銀色の刃が刺さっていた。男をどさりと振り落とし、ぼくを見る。逆光で表情はわからなかったが緊迫した雰囲気は変わらなかった。
踵を返す長いコート。彼もこの争いに参加し、悲鳴や命乞いを無視し殺してきたはず。なのに、彼の後ろ姿は気品があって美しく、…見惚れた。

自分の危機に追い込んだ輩を一撃で仕留め何も言わずに去る。そんな事をしたら命を救ってくれた事に感謝、何故何も言わずに去ったか問うたり、目の前の惨劇に怯えたりするかもしれない。でもぼくは憎悪も恐怖も感じず、ただ憧憬の念を抱いた。





それからぼくは海賊に憧れた。

自分の町を地獄に変えた彼らを。

恨みもせず。怯えもせず。
(だが町は奴らを危惧し)

何故なら"彼"はぼくにとって
(同時に町にとって)

『救世主』に映ってしまったんだ。
(ただの『死神』に他ならなかった)

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