2.甘いものと辛いもの

(期間限定板に投稿)
(お借りした方→スシェンさん、シュムさん)






コンコン、とノックが鳴る。シュムが部屋を出てまだあまり時間が経たずに来た訪問者を入るように促せば、レヴィ=エーメリーが姿を見せる。

「スシェン殿、頼まれたダガーの修理が終わりました。」

「ほう…卿自ら出向くとは珍しい」

いつもはレヴィの相棒でもあるスクロースが修理完了を伝え、こちらが出向く事が主なので思った事を言えば、レヴィはこれまた珍しくふわりと笑い答えダガーを渡す。

「はい。しかし今回は港に着いたと聞き、少し降りてみようと考えた故に…」

「成程、此処に寄ったのはついでのようなものか」

からかい半分で言ってみたのだが、本人は失態をしたと思ってか慌てて違うと否定する姿に思わず苦笑を漏らす。

「何も咎めているわけではない。……港へ行き羽を伸ばすのもまた大事だ。行ってくるがいい」

ほっと息を吐き、はいと言うその顔はいつもの表情に戻っていた。

「シュシェ…失礼、スシェン殿はもう港に降りたので?」

名前を噛んだ事を指摘しようと思ったがそれより尋ねられた事に否と返せば、不思議そうにそうですか、と呟くような声が聞こえる。

「何故そう思う?」

「はい、貴殿の部屋が甘い香りがしたものでてっきり…」

そう、現在入港している港はマウシリアというチョコレートと言う甘い洋菓子が有名なのだ。船にも幾つか積まれたようだが。スシェンの部屋にも同じ甘い匂いがしてそう思ったのだろう。今機嫌の悪い原因に触れられ眉間の皺を濃くするとレヴィは少し困った様な顔をした。
レヴィ、と名を呼び握り拳を目の前に突き出せば、ぽかんとして反応が遅れたがその拳の下に両手を出す。両手に包みが置かれる。これは…と困った顔でスシェンを見れば忌々しげに呟き返す。

「シュムズィゲが寄越したのだ」

「それは…。しかし何故オレに?貴殿が召し上がる方が彼も喜ぶでしょう」

「………小生はこのような甘味は好ましい思わぬのでな」


しかし貰った物を貰うというのはやはり抵抗があるが、この様子だと返しても受け取ってはもらえないだろう。

「では、有り難く頂戴します」

是非そうしてくれと言わんばかりの表情のスシェンを見て、後でシュム殿に謝罪と礼を言わねばと心に決める。
レヴィがコートを捲り何か探し終えると、これを、と先程と逆で握り拳を突き出しスシェンの手に置く。小さな包みだ。

「なんだこれは」

「先程の礼です」

「そうではなく」

「鷹の爪です」

甘いのが駄目なら辛いものと言う事だろう。その事がわかり頭を抱える。突き返そうと思ったが、レヴィはすでにドアの前にいて、失礼しましたと頭を下げ出て行ってしまった。

ただ貰うだけというのが嫌でせめて自分が好んでいる物を渡して行ったのだろう。彼は甘党であり辛党だから鷹の爪なんぞ置いて行ったのだ。

「余計な事を…」


まだ甘い匂いが香る部屋で今日何回目かの溜め息を吐いた。

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