1.おれは むりょくだ

(柚弥視点)




俺はイライラしていた。らしくないとは思いつつ一歩一歩を強く地面に叩きつける。


先日の噂の件。噂の真相はわかったが解決はしていない。放送の時双子ははっきりと"第三者の介入"と言っていた。つまり原因はそいつ、(自称)後輩の言う"悪"とはまさに奴等を指すのだろう。
そして今回、噂の時とは違いKeeper、Tracer、Umpire、BAR・Drop、つまりWar Game関係者が協力して第三者…不審者を探し出すという事。特にKeeperは敵ではあるが今では知り合いも多く正直戦うのは良くとも疑い合うのは気分が良いものではなかったので協力出来るのは喜ぶ事だと思う。


イライラしている原因は不審者にある。俺はただ此処で戦いたいだけなのに何故第三者などに邪魔されなければならないのか。戦いを中止されているわけではないが、別の事に気を取られ身が入らないのでは意味がない。
それに噂の時に思った事がある。さっさと白黒付けたい。泣き顔や不安そうな…知り合いや仲間のらしくない顔は正直見たくなかった。自分の調子が狂うから嫌なのだ。それ以外の意味はない。


カジノ周辺のあちこちに不審者の目撃情報が記載された紙が貼られている。ある程度特徴がわかる為運良く出会せば取っ捕まえる事も不可能ではない。
「皆何事もなければそれでいい」と幼馴染みのような考えは持ち合わせていない為、気紛れではあるがカジノ周辺を散策し不審者を探している。

今日もそのはずだった。
目撃情報の紙を見る度苛立ちを募らせつつ歩いていると見覚えのある金髪の少女が走っていた。

「ノクトちゃん!」

少女も自分に気付いたようでこちらに向かい走ってくる。そこで不審に思った。息を切らし、焦ったように走っている。何かあったのだろうか。

「ノク……」

近付いて来た少女は傍まで来ても止まらず俺の胸に飛び込む。可愛らしい少女にこんな事されたら赤面しそうなものだが、生憎そういった感情は俺にはない。それより普段ならしない行動、切らした息に混じる嗚咽を聞き眉間の皺を深くする。少女を軽く抱き留めゆっくり背中を擦り次の言葉を待つ。「ラジさんが…っ」と数回繰り返す。嫌な予感がする。聞かなくては、でも聞いてはいけないような嫌な感じが。

「ラジさん…?」

「う、ん…。病院に、ひっく…」

「病院?」

「襲われたって、はなし、きいて…」


頭を鈍器で殴られたような感覚…とはこういう事なのだろうと頭の隅でぼんやり考えた。
少女が何を言ってるのかわからなかった。いや、わかりたくなかった。だってラジさんってあのKeeperの代表のラジさんだろ?信じられるわけがない。でも少女の話は様子を見ていれば真実だとわかってしまう。

力の入らない手を(こんなに動揺してるなんて意外だ)ゆっくりとまだ嗚咽の聴こえる少女の頭に乗せ、ぽんぽんと軽く叩き撫でる。

「きっと、だいじょうぶだ」

だって、ラジさんなんだから、と少し震えてしまった声で言った。
きっと、だいじょうぶ。ラジさんはそう簡単にやられない。そう思うしか出来なかった。






少女を安心させる事すら、俺は出来ないなんて

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