監獄のお話(監獄組)
(イペリット+セツ+スピネル)
「感情がないなら、どうやって愛するの?」
……また始まった。囚人であるマニューラのスピネルさんはよく私に愛を語る。愛する誰かが好きなのか、誰かを愛する自分が好きなのか、愛というものが好きなのか(好きというより崇拝だろうか)?彼女の愛が本当の愛か嘘の愛か?
そもそも愛がわからない私が愛について考えるなんて無理な話。でもこれはわかる、『彼女の愛は異常』。証拠は彼女が此処にいる事にある。彼女が殺した7人は彼女が愛したと話す人々だから。凍り付けにして殺した。本人は「綺麗なまま眠らせているだけ」と殺人ではないと主張しているようだけど。
そんな彼女なりの『愛』を私は聞く。ただ聞くだけ。質問には答えるけど。
「貴女、愛を知らないのに生きていて意味があるの?楽しい?」
「私はただ自分の任務を遂行するだけ、それが生きるということ。それが私の生きる意味」
「……つまらないわ。そんな生き方なんて」
さっきまでの表面では普通に、でも何処か熱のある喋り方とは一変し、本当につまらなさそうな顔をし冷たい声を発する。
つまらないと言われようがこれが私の生き方なのだから。
スピネルさん以外にも私は可笑しいと言われる。だから私は普通の人と違うんだなと思い始めた。でも、だからと言って自分の考えを変えようとも思わないし、そういった事を言われても私の感情―怒るとか悲しみは表れない。
踵を返し牢屋のベッドに向かうスピネルさんを見詰める。
「……くく、愛、ねぇ」
スピネルの牢屋とは少し離れ向かい側の牢屋から男の声。
「本当に変な奴だなあいつは。」
「貴方だって世間から見たら変な人でしょう?」
「ふふ、それは貴方もでしょう」
可笑しそうに笑う声がする。私は彼の言葉に何も返さない。本当の事だと思うから。彼は「まぁ」と言葉を繋げる。
「此処にいる奴らは世間から見て"変"、世間から"外れた"奴ばかりだと思いますけどねぇ」
また小さい笑い声がし、静かになった。
此処は罪を侵した人が集められる場所。でも彼らは罪を認めても反省せず、誇らしく自慢げにその罪を語る。
そんな彼らに裁きが下るのは何時になるのだろう。
…それも私には関係のない事。私は此処の監視をするのが使命なのだから。
彼らのように世間から外れ罪を侵した者を監視する、し続ける。
ただ、それだけ。
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