過去編(青菜)

(3つに分けて書いたのを1つにまとめたので結構長いです)
(文書くのは苦手なので下手ですまとまってません)


















Barの作業も段々慣れてきて、店の人やお客さんとのトラブルも特になく今日もいつもと同じ作業をする。テーブルの上を拭く。なんだかそれだけで楽しくなれそうな程此処の居心地が良かった。

キィとドアが開く。いらっしゃいませ。今日で既に何回か言った言葉を吐き目をドアの方にやる。

(……え?)

黒に近い灰色の髪と服。ワインのように赤い目。肌が白く、隈があって体調の悪そうに見える小柄な男。何より見覚えがあるのは髑髏のお面。
はっと我にかえり相手を見れば、あんぐりと口を開けドアの前で突っ立っている。そして口を三日月のようににんまりと曲げたかと思えば嬉しそうにまた口を開く。

「青じゃーん!!久しぶりぃ!!」

そう叫ぶと駆け寄ってきて背中をばしばしと叩かれる。

「痛いなあ…ふふっ久しぶり。元気そうだね」

「当たり前でしょお!昔から身体は丈夫だからねぇ」

「そうだったね。あ、あれから身長伸び…痛い痛い痛いっ!!図星だからってそんな強く叩かないで!!」

これ絶対グーで叩いてるよね!めちゃくちゃ痛いんだけど…。でもこういう所変わらないなぁ。そう思うとなんだか嬉しかった。それが顔に出てたらしく気持ち悪いと言われたけど笑ってごまかした。


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柚ちゃんとは小学生くらいからの付き合いだ。



まず俺の話。

俺は両親と俺の3人家族。親は仲が良く、俺には優しく時に厳しくしてくれたと思う。お金持ちでも貧乏でもなく普通の家庭。その家庭で俺は幸せに育った。……あの日まではそれが、幸せな日々が続くと、それが当たり前だと思っていた。

小学2年くらいの頃。学校から帰るとリビングが真っ赤だった。そこに父と母が横たわっていた。ゆっくりとリビングに入り母に触れる。動かない。いつもより温かくない。お母さん。呼んでも返事をしてくれない。お父さん。呼び掛けても全然動かない。ふと視線を下に向ける。…真っ赤なお母さん。気付けば自分も赤かった。
その後自分がどんな行動をとったか全然覚えてなかった。話を聞くと両親は殺されたようだ。金目の物が無くなっていたから強盗に殺されたと言っていた。幸い犯人はすぐに見付かり裁かれる事になった。犯人を見てもこの人が殺したのかとしか思わず悲しみも怒りも感じなかった。

それから俺は親戚の家に行く事になった。学校も転校した。学校でも家でも自分の居場所なんてなかった。学校では虐めに遭うし家では邪魔物扱いされる。どうして自分は生きてるんだろうと考える事もあった。

「やーい泣き虫!」
「お前の髪色違って気持ちわりぃー」
「お前なんか死んじゃえ!」

いつも言われる台詞。ドラマなんかでありそうなんて客観的に考えながら早く終わらないかと下を向く。
その時だった。虐めっ子の泣く声がして顔を上げる。目の前には小柄で黒いパーカーを着た男の子にしては少し長い後ろ髪の子。状況が飲み込めずその男の子の後ろ姿を見る。

「もーだいじょーぶだよ!」

振り向き男の頭を撫でる。なんでかわからないけど、また涙が出てきた。

あとから知ったけど、その子は柚弥という名前で一学年上の人だった。


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それからはその柚ちゃん(柚弥さんと呼んだら何故か怒られた)と一緒にいる事が多くなった。学年が違うからずっと一緒にいられる訳ではないけど、それでも居場所が出来た気がして嬉しかった柚ちゃんと仲良くなってから何故だか虐めが無くなっていって少しずつ友達が出来た。

「俺、家に帰りたくない」

柚ちゃんと下校中思わず本音を漏らした。学校も家も嫌いだったけど今は学校が前程嫌いでは無くなった。でも家での扱いは前から変わらず…俺はいらない子だと思われてる。自分達の家庭を邪魔する奴って思われてる。それを知ってるから帰りたくなかった。
俯いてると柚ちゃんに右手をぎゅっと握られそのまま走って行く。待ってと言おうとするより早く柚ちゃんが喋る。

「じゃあウチにおいでよ!」

えっ、と戸惑っている間にどんどん進んでいく。結局断れず気付けば大きな家の前にいた。なんだかお偉いさんが住んでるような…豪邸という感じだろうか。呆然とする俺を余所に柚ちゃんは大きな扉の横の小さなドアから入り、こっちこっちと手招きする。遠慮がちに入ると漫画でしか見たことないような和風の大きな庭だった。キョロキョロとしているとまた柚ちゃんが手を引っ付かんで歩く。広い玄関、綺麗な廊下を通り和室へ連れて来られた。

「柚、お帰り」

「お祖父ただいま!」

和室でお祖父さんがお茶を飲んでいた。ふと目が合いぺこりとお辞儀をする。お祖父さんはにこりと笑っていらっしゃいと言ってくれた。

「柚が友達連れて来るのは珍しいのう」

「そうだっけ?」

柚ちゃんはランドセルを片隅に置き(此処お祖父さんの部屋なんじゃ…?)首を傾げる。
それから思い出したように言う。

「お祖父、今日友達泊めていい?」

「えっ」

えっ、と言ったのはお祖父さんではなく俺。だって家に帰りたくないとは言ったけど泊めようとしてくれるなんて…。流石に迷惑になると思うし、邪魔もの扱いする親戚だけどそれなりに心配すると思うし…。

「構わんよ」

「えぇっ!!」

お祖父さんはすんなりオーケーをくれた。可笑しいと思うのは俺がズレているからなのか。

「この家まあまあ広いけど、人少ないから部屋も余ってるし、青がいてくれると嬉しいんだけど…」

駄目?と上目遣いに言われても…!助けを求めるようにお祖父さんを見れば柚ちゃんの意見に頷いている。…どうしたらいいんだ。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」

そう言うと二人の顔がぱっと輝く。お祖父さんはご飯の準備をすると部屋を出て、柚ちゃんは早く宿題終わらそうと言って準備している。…本当にいいのかな?言った後にもまだ考えていた。



+-------+








結局その日は泊まってそれから学校行って親戚の家に帰った。一日家に帰って来なくて少しは心配してくれてるかなと思ったけど普通におかえりと言われ何だか淋しくなった。
それから柚ちゃんの家に泊まる事が増えた。おじさんも歓迎してくれるし親戚は何も言わない。それに柚ちゃんといるのは楽しかった。








「そういえば柚ちゃん、これからどうするの?」

進路。この時俺は高二で柚ちゃんは高三だった。仲の良い人の進路は気になるもので聞いてしまう。でも柚ちゃんはいつもはぐらかす。とりあえず進学はしないようだ。でも就職するとも言っていない。おじさんの仕事継ぐのかなと何となく思った。だってあんな大きな家持ってるんだし、なんか後継ぎとかありそうだな…っていうイメージがあるから。

結局卒業するまで…いや、今でもわからないままだ。


そして卒業式に「じゃあね青!また会おうね」と別れたきり会えなくなってしまった。





+-------+


「また会おうって言ってたのにいきなりいなくなっちゃうし」

「あははごめんねぇ」

もうっ。そう言って腰に手をあて息を吐くと、全然謝る気を感じない謝罪をされる。

「で何処にいたのさ」

柚ちゃんが卒業からあのよく泊めてもらった家に行ったものの誰も住んでいなかったのだ。結局行方がわからず今日まで会う事がなかった。
真剣に聞く俺にいつものへらへらした顔を向ける。

「ところで、青は此処、どういう所かわかって来たのー?」

…何を言ってるのかわからない。此処はBarだろ。何が聞きたいのか何を言わせたいのか。(昔からわからない所のある人だったけど)

「ふふっ知らないで来たのかぁ」

ケラケラと笑う。しかし柚ちゃんがいきなり真剣な目をして言う。

「まぁいずれわかると思うけどねぇ。そして」

俺の事も、ね。とぽつりと呟く。どういう事かと問いただそうとしたが柚ちゃんは立ち上がり会計よろしくぅといつも通りに戻っていた。いくら知り合いでも今はお客さんだし無理矢理引き止めるわけにもいかない(俺もまだ仕事中だし)。
知りたい気持ちを抑え会計を済ます。柚ちゃんはにこりと笑い、話はまたの機会にねと言って店を出た。

このお店の事、柚ちゃんの事、気になって作業に集中できなかった。



そして事実を知ったのは、そう遠くない未来だった。

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