無題
夢見がちな蛇ちゃんの話。
恋愛というものは甘くて綺麗なものだと思っていた。
街にいる幼馴染みが彼女に向ける微笑みはそれで、砂糖菓子のような…という表現を聞いたことがあるが、そんな感じだった。にこにこしていて幸せそうで相手を大事にしてるのが伝わる。俺と目が合うと照れくさそうに笑う。この甘ったるい空気はなんだか嫌じゃなくてふんわりとしていた。
「俺たちの関係ってなんだろうな」
ぺろっと無い胸の頂を舐めて呟く。男の漏れた声をぼんやりと聞いて舐めていない方の胸を手で弄る。
体を重ねるという行為は、好きな人が出来て想いが通じ合ってからだと、もっと幸せなものだと思っていた。
でもそんな事はなかった。現実は想いがなくたって出来るもので、それは吐き気のするほど気持ち悪く汚いものだと感じだった。裏で生きているのだからどんな事でも覚悟をしているはずだった。見付かってはいけないことをすること、表に明かせない仕事、痛いこと、傷付けること、殺すこと、殺されること……でもこれは想像していなかった。だってずっと無縁だと思っていたから。でも相手の戦意をなくす手段で使う奴もいたんだ。
「大丈夫、すぐ気持ち良くなるからね」
と、女のような格好をしたいた男はにんまりと歪んだ笑みを見せ行為に及んだ。
俺に跨がって腰を振る姿に嫌悪感を抱きつつも、初めての変な感覚に戸惑っていた。
恋愛からの行為と、仕事の手段としての行為。今の行為はどちらにも当てハマらない。と俺は思う。
「さぁ…。まぁセフレみたいなモンじゃねーの?」
難しい顔してると思ったらそんな事考えていたのかと溜め息が漏れる。
そんなこと…なのか?俺にとっては割りと大事なことだと思ったのだが。
「なぁ、アンタはそれで満足してんの?好きな人いんじゃねぇの?」
こいつがこの行為を他のやつともしているのを知っている。当事者から聞いたのか他で知ったのかは覚えていないが、二人でいるのを見た時にああ、なるほどと妙に納得したのは覚えている。
しかし恋愛とはまた違うらしい。俺たちと同じ関係なのだろう。なんでこんな事をしているのだろうか、本当に満足なのか、本当は…こうしたい相手がいるんじゃないか。
「…………恋愛ってどんな感じなのかな」
さっきの問いにぽかんとしていた相手を無視して言葉を紡げばぶっ、と吹き出して笑われ、今し方言った言葉を思い出して恥ずかしくなる。
「ぷくく…お前は可愛いな!」
「可愛いとか言ってんじゃねぇよ!!」
「本当のこと言っただけだろ!なんだ、好きな子でも出来た?」
「ちっげぇよ!!そのにやにやした面やめろ!!むかつく!!」
じゃあ何でそんな事聞いたのかと問われればピタリと声を止める。このまま伝えればからかわれるのは目に見えてるが、誤魔化すのは得意ではないしコイツにはバレそうだ。
好きな奴じゃないのに体重ねて体も心も満足か、とそのまま聞いた。誤魔化せないなら仕方ないじゃないかと自分を慰める。お前は童貞か、と言われたので、この間散々喘いだのは何処のどいつだと睨み付けてやれば肩を竦め、それから俺の頭を撫でた。子供扱いされているようで嫌だったがされるままにしておいた。
「今の関係は嫌じゃないし、それなりに満足だ」
「で、でも、」
「そうだな…まだ途中なのにこんな焦らされてる方が満足できないな」
「それは聞いてねぇ」
なんだかよくわかんねぇし、話逸らそうとされた気がする。本人がいいならいいかと開き直り行為を続けた。
「恋愛ってさ、角砂糖の様に甘くて幸せなんだろ?」
「お前何言ってんだよ…」
「うっせ」
「キスはレモン味とか言うだろ?他にも色々あるんだよ。甘いだけじゃねぇの」
「あ、そっか」
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書きたかったはずなのに書けなかったもの、伝えられてなさそうなものetcメモ
・蛇ちゃん意外に人の気持ちに気付く。ロクさんの事もなんとなく気付いてて、こう夢見がちだからあまりちゅーはしたくない。好きな人とやるものだと思ってる。
・ロクさんに「この関係がないとお前色々溜め込むだろ?」みたいなこと言わせたかった
・過去の話は入れるつもりなかったけどなんか入ってた。蛇ちゃんは入れられてない。失ったのは童貞だけ。これのせいで与えられる快感がこわい。ロクさんに突っ込むのはちゃんと気持ちの整理が出来てるから大丈夫。パニクると泣く。逃げる。
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