後輩というのはかわいいもので、生意気な後輩ならなんの愛情もわかないのだろうが、懐いてくれると大変かわいらしいものだ。 今年中学2年になったあたしにも、ついに可愛い後輩ができた。だけど、できたのは同性ではなく、異性だ。いや、後輩ができることに嬉しさは変わりない。でも本心は同性の後輩も欲しかったな〜なんて、欲張りなことを言ってしまう。けど可愛いものは可愛い。現に、いまもこうして かくれんぼをしている 「先輩みーっけ」 「あ」 あたしを見つけてうれしそうに俺の勝ち、と言った彼。そうあたしの後輩、越前リョーマくんだ。あたしは男子テニス部のマネージャーをやっており、そのおかげあってか今年入部してきた越前くんと出会った。最初はすごくとっつきにくい子で、チームのみんなともうまく溶け込むことが困難だった。その上レギュラーにまで選ばれて、先輩たちともうまくいきづらくなっていた。そんなとき、乾先輩のデータのから越前くんが遊ぶことが好きだと聞いて、実践してみた結果、あたしとは打ち解けることができた。そのおかげで今は少しずつだけど、チームのみんなとも打ち解けてきている 「こんどは先輩が鬼ね」 「越前!もう練習の時間だ!遊びはその辺にしろ!」 「………ちぇっ」 ただ一つの難点は、遊びに夢中になりすぎて、練習時間に遅れてしまうことかな 「越前のやつ、ほんとお前に懐いてるよなあ」 練習中。同じクラスの桃城くんがあたしに声をかけてきた 「え…そうかなあ」 「だってよ…越前の奴、だいぶ俺たちにも慣れてきたっぽいけど、やっぱ俺たちよりもお前のほうが懐いてるぜ?」 「あたしは、越前くんがみんなと溶け込んでほしいから話しかけてるだけだよ」 「せんぱい!」 すると、越前くんが向こうから走ってきて、急にあたしの腕にしがみついてきた。なにかにおびえているのか顔が真っ青になってすごく震えてる…。 「越前くん、どうしたの?」 「あれ………怖いっす」 「あれ?」 すると、越前くんが駆けつけてきたところから乾先輩がやってきた。どうやら右手に怪しいジュースを持っているもよう…。原因はあれか。 「乾先輩、またそんな飲み物つくって…!」 「な。これは研究としてだな…!」 「越前くんが怖がってるじゃないですか!初めての子に、無理に飲ませるのはやめてください」 「うっ…しかし…」 どうやら練習メニューで失敗すると罰ゲームとして乾汁を飲むことになっていたらしい。あたしの知らないところで…。まだ越前くんはレギュラーに入ったばっかりで、先輩たちにも溶け込めないでいるのに、余計に怖がらせてどうするの 「…なあ、あいつ一回乾汁飲んでるよな?」 「フシュー…………マネージャーを使って逃げやがったな」 「大丈夫?越前くん。ごめんね、あんな先輩ばっかりで」 「だいじょうぶ、っす…」 大丈夫という越前くんは、未だあたしの腕にしがみついたまま顔を隠している。 「どうしたの?まだ怖い?」 「………」 越前くんはあたしの腕からそっと離れた。越前くんの顔を見ると大丈夫だったので、安心した。すると 「先輩、かくまってくれてありがとう。だいすき」 越前くんはあたしにニコッと笑って、練習へ戻っていった。この瞬間、あたしの心の奥でなにかが音を立てたのと、なにかが崩れた音がした。 2012/01/12 |