小悪魔 | ナノ



となりの席の芥川くんは、いつも寝ている。それこそ授業中はほとんど寝ているか、教室にいないかのどちらかだ。疑問なのは授業に出ていないのにテストの点はそこそこ良いということだ。そこはちょっとした嫉妬でもあるんだけど

芥川くんは、いつも寝ている。それなのに、テニスの実力も相当のものらしい。200人以上いるテニス部のレギュラーにちゃっかり入ってる。芥川くんが練習してないのは、あたしが外の部活で、たまに二年生の樺地くんにかつがれているのを黙認しているからだ。他にも、あろうことか木の上で寝ているのを発見したりで、テニスの練習をしているところをあまり見ない

時期は、そう、5月あたりだろうか。芥川くんがあたしの隣の席になってから、2週間ほど経ったころ。きっかけはほんの些細な出来事だった。友達が、体調が悪いとかなんとかで保健室に行った。その子を迎えに保健室の扉を開けるのだが、友達の姿も先生の姿も見えない。ただ、保健室から聞こえるのは、ぐちゅぐちゅとした嫌な音と、そこから漏れる吐息

カーテンは閉まっていた。だが、隙間から見てしまったものに、あたしは一時の罪悪感を覚える。……芥川くんと目が合ってしまった。あたしは見てはいけないものを見たと思い、その場から立ち去った。

なんだったの……あれは…。あたしが見た芥川くんは、いつも気持ちよさそうに寝ている芥川くんじゃなく、ものものしく、猟奇的な……。芥川くんの目を見た瞬間、背筋が凍ってしまったのかと思った。友達は、何事もなかったかのように2時間も授業さぼってしまった、と軽く笑い飛ばしていた

芥川くんは、ただの眠れる子羊なんかじゃない。羊の皮をかぶったオオカミだ。

「やっ…っは……離して」
「やだ。離しちゃったら、キミ、先生にチクるでしょ?」
「そ…んなこと…」
「じゃあなにしに“ここ”に来たの?」

芥川くんが授業に出ていない時間。その日は都合よく保健室の先生が出張でいなかった。ご丁寧に入口には外出中と書かれた伝言板がぶらさげてある。だけど、鍵は開いている。あたしはゆっくりと扉を開ける。そして奥へと進んでいき、目的地のベッドへとたどり着く。そこまではよかった。まさか、芥川くんが背後に立っているとは気づかず、急に突き飛ばされベッドへと投げ出される

「休みに来た…だけ」
「へえ……じゃあ俺と一緒に休もうよ」

にっこり。と天使のような笑顔にあたしは一瞬騙されそうになったが、同時に恐怖も感じた。あたしは必死に抵抗したけど、手は掴まれ脚は芥川くんが器用に押さえつけていて、逃げ出そうにも逃げ出せない。最終手段、声を上げるしかないと思い誰か、とまでは言えたのだが、あっけなく騒ぐ唇を芥川くんの唇でふさがれてしまう

「…っふ…ぁ…」
「……やめてよね。そういうことするの。俺が怒られちゃうじゃん」
「……んで、こんなこと…」

目の前にある芥川くんの顔を睨みつける。それでも彼は物怖じせず強引に唇を押し付ける。這うような唇に、あたしはどうすることもできなくて、ただされるがままの状態になってしまう。キスの経験が少ないのか、それとも芥川くんの前で取り乱したくないのか、息遣いすることを拒絶して呼吸は苦しくなった

「俺、知ってるよ?キミがいつも俺を探してること」
「………っ…」
「もしかして気づいてないと思った?あれだけ見られてたら俺だって気づくよ。だから、キミにはいらいらしてたんだよね」

芥川くんは、すべて知っていた。それを知った上で、あたしを誘い込んだのだと、あたしは悟ってしまった。芥川くんの続ける行為は、あたしの中でなにかを崩壊させていった

「キミってさ、俺のこと好きでしょ」
「…ちっ…ちがう…!」
「嘘。俺、嘘つく子きらいだな」

知らぬが仏。逆に言えば、知れば地獄

2011/09/26
ここまで踏み込んだの初めてだ…(笑)