青春を部活に捧げる | ナノ



「どうしたの愛子。相変わらず変な顔して」
「…前から疑問に思ってたんですけど、しょーこ先輩はもう引退したんですよね?」
「そうね。キャプテンも無事ゆーちゃんに決まったし」
「……………なんでまだ練習に来てるんですか?」

そう。夏にあった大会はすべて終わったというのに、3年生のしょーこ先輩や他の3年の先輩方もまだまだ普通に練習に来ていらっしゃる。なんともめずらしい部活のようで

「そりゃあね、愛子のことが心配だからみんな練習してんのよ」
「ま、まじっすか…!」

うれしい言葉じゃないですかっ。あたしのことが心配でこうやって練習に来てくださる先輩方、なんて優しい人たちなんだろう!


「たとえば、愛子がさぼったり?愛子が男子のコートに行ったり?愛子の剛球でネットに穴が開いちゃったり?」
「ね、ネットは破れかけてたからです!あたしそんな怪力じゃありませんー!」
「ほかにも色々と報告は来てんのよ」
「そうそう。だからね愛子」

話に入ってきた新部長、ゆーちゃん先輩はあたしに地図が書かれた一枚の紙を渡してにっこりと微笑んだ


「なんですかこれ」
「あのネットが破れてもう使いようにならないから、買ってきて」
「はあああっ!?本気で言ってるんですか!これ、神奈川に近くないですか!?ていうか神奈川じゃん!」
「はあーあ、誰のせいでネットがああなっちゃったのかしら〜。あんたが手塚先輩の真似〜とか言いながら思いっきりネットに突っ込んででっかい穴開けたなんて手塚先輩が聞いたら神奈川どころじゃなくなるんだろうな〜」

たしかにブラジルまで走って来いとか言われそうだ。ここは手っ取り早く神奈川までネットを買ってぶちょーに秘密にしてもらうことが得策か…。でも一人で神奈川行くなんて寂しすぎるよー!








「で。なんで越前くんも走ってるの?」
「……………」
「でたよ無視攻撃。まあ、もう慣れたからいいんだけどさー」

気づいたら越前くんが隣で走っていた。なんでバスに乗って行かなかったのかは、あたしのお財布に尋ねてくれ。きっとなにも答えないだろうからさ(お金がないから)


「越前くんも神奈川のスポーツショップ行くの?」
「…………」
「いやー、奇遇だねー。実はあたしもなんだー。ネット壊しちゃってさー買って来いって言われちゃってもうやんなっちゃうよねー」
「…………」

見事に無視。ここまで無視できる彼は本当に末恐ろしいと思う。いい加減寂しくないのかなー。あたしは誰か一人でもいれば喋ってられるから寂しくないんだけどさ


「なんでいきなり口聞いてくんなくなっちゃったの?」
「…………」
「あたしなんかひどいことした?」
「…………」
「…………」
「……あの六角のやつとどうなったわけ?」

え?なんで葵くん?

「葵くん?葵くんとは別になにもないけど」
「ふーん、ずいぶん気に入られてたみたいだけど」
「あ、あれは…俗にいうナンパというやつでね!あたしもついに時代が来たってことっすよ!」
「あっそ」
「告白されて、一時争奪戦だったんだからね!」
「へえー」
「ほんとなんだからね!あたしモテモテなんだからね!」
「言ってれば」

越前くんが無口じゃなくなった。いつもの越前くんだ。なんか、今までのストレスが一気にふっとんだみたいだ。走ってても疲れない




「愛子走っていったけど大丈夫なの?」
「ああ。最近大石先輩にかなり走らされてるみたいだから大丈夫よ」
「それもそうか。体力だけはすごいもんねあの子」

2010/11/16