青春を部活に捧げる | ナノ



「あ、愛子ちゃん」
「おー桜乃ちゃん!」

「ああ!上原愛子!」
「あっ朋ちゃん!」
「ちょっと気安く呼ばないでよ!」

ぐすん、朋ちゃんはやけにあたしにひどいんだ。二人とも、大会に来るなんて珍しい〜。それに可愛い格好してるなあ朋ちゃん。水着かな?暑いもんね、っていったら朋ちゃんに首を絞められました


「応援しにきたの?」
「ええ、リョーマ様の試合をこの目で確かめないといけないからね!」
「へえ〜、そんなに見る価値のあるもんかね」
「なによ!リョーマ様を侮辱するなら許さないわよ!」
「桜乃ちゃんも?」
「え?う、うん…」

二人とも越前くんの試合見に来たのかあ…。まあ関東大会ってなれば青学の生徒も見に来るよね。しょーこ先輩とかゆーちゃん先輩とか。好きな子の応援しに来てるんだよね

あれ。あたし、なんのために試合見てるんだっけ?



「ところであんた!今リョーマ様と付き合っているんじゃないかていういかがわしい噂が飛びかってるけど本当なの?本当なら今ここで抹殺しなきゃならないんだけど!」
「…あたしは越前くんとは付き合ってないよ」
「じゃあなんでそんな噂が流れてるのよ?疑いがなければそんな噂も流れないじゃない」
「と、朋ちゃん、あんまり責めるのはよそうよ」

疑い、ねえ…。あたしの予想だと桃ちゃんとかえーじ先輩あたりが流しているんだと思うけど、噂って恐ろしいもんだね

なんか、胸がちくちくしてきた



「あっ、朋ちゃん!リョーマくん来たよ」
「ほんとだ!リョーマ様ぁ〜!」

「愛子ちゃん、愛子ちゃんも一緒に…あれ?愛子ちゃん?」







なんだろう、急に胸がちくちくして気持ち悪くなったきた…。なんか変なものでも食べたっけ?いや、今日はお茶漬けしか食べてないし

あたしはトイレから出てきて外の空気をすうっと吸い込んだ。ゆっくり吐き出して、同時に閉じていた目を開くと木がざわざわと風になびいているのが見えた


あたし、落ち込んでる?普段こんなことしないし、心なしかためいきついてるし。
なにがそんなにショックだったんだろう…?


「あれ…?おじさま?」

女の子になにやら声をかけている人をよく見ると南次郎おじさまだった。あたしはすぐそばまで走っていった

「おじさま!」
「おお!愛子ちゃんじゃねえか、どうした?こんなとこで」
「越前くんの試合を見に来てるんです」
「へえ〜あいつのねえ」

おじさまは何しにきたのかと聞くと、ひまつぶしだってさ。女の子に声掛けちゃだめですよ。怖がられてるみたいだし


「愛子ちゃん、あいつのこと好きなのか?」
「え!?な、なんですかいきなり…」
「なんとなくだけどよ。わざわざあいつの試合に来るってことは、もしかしてっと思ってな〜」
「……………」

そうか。やっぱり、あたしわざわざ試合に来たりしてるから、そう思われちゃうのかな。
でも、桜乃ちゃんや朋ちゃんだって、来てるわけだし…。それって……

「…どした。なんか元気ないのな、愛子ちゃん」
「そ、そうですか?けっこう元気だと思うんですけど…」
「なんかあったか?」
「……」

あたしは、おじさまにはこっそりと、胸のうちを話すことにした。噂のこと。いま悩んでいること。すべてってわけじゃないけど、おおまかに話した


「そうか〜、噂ねえ〜…」
「おじさまはそんなことなかった?」
「噂なんて男にとっちゃどうでもいいことだからよ。全然気にしてなかった」
「すごいです、おじさま」

あたしだって最初はそう思ってた。なのに今はこれだ。

「どうして越前くんとあたしが付き合ってるって言われるんですかね?」
「さあな。ガキ同士の噂ってのはわかんねえもんだ」
「テニス部に入ったときから越前くんとはよく話すんですけど、そのときはそんな噂なんて流れなかったのに…」


「……………なあ、愛子ちゃん」
「なんですか?」

「愛子ちゃんは、どうしてリョーマにこだわるんだ?」
「え………」


どうしてそんなに執着するんだ?
そう、おじさまに聞かれて、あたしはすぐに答えが出なかった。そのまま立ち止まるあたしに、おじさまは「次に会うまでの宿題だ」と言ってあたしの前から姿を消した


あたしが、越前くんにこだわる理由

2011/12/03