青春を部活に捧げる | ナノ




「越前くん、ひとりで戦ってるみたい」

出会って間もないころ、不機嫌な顔で愛子に言われたことがある。俺は否定することもなく、ふーんと相づちをするだけだった。たしかに元々一人で大会とか出てたし、こういう団体戦とかは正直やったことなくて、むしろ苦手だったかもしれない
だけど、どんな相手にも負ける気はしなかったから、団体戦もどうってことはなかった。それが結局個人戦になったとしても、俺が負けなきゃいい話だから、とくに気にしてなかった。それが愛子には不満だったらしく、顔がその感情を物語っている

「…なんでそんな不機嫌なわけ?」
「………………」

愛子はふくれっ面で俺の顔をちらちら見ながら、急に俺の前へと立ちはだかった。そして、ゆっくりと深呼吸をしてこう言った

「もっと仲間を信じようよ!!」
「うざ」
「なっ…!!!!」

ふざけてるだけか。愛子はいつものようにぎゃーぎゃー言ってただけで、結局、愛子の本当に言いたかったことはわからなかった。

だけど、今考えてみると、俺は本当にひとりで戦っていた。誰かの応援をすることもなく、誰かの勝利を願ったこともなく、ただ一人、自分の向上心だけが一人歩きしていただけだった。仲間を信じよう、か。適当なこといって、案外当てはまってる愛子が、すこし憎たらしい

「全国優勝、か…」
「ん?なんか言った?」
「………べつに」

いつのまにか、俺の目標は、個人の優勝じゃなく、青学の全国優勝になってた

俺たちは、頂点へ行くんだ
2012/02/09