「白石くん。白石くんはなんでそんな左手見せとうないの?呪いでもかかってはるの?」
うちのクラスの名字名前は、少し変わった子で有名や。なんや親は精神科医らしく、その娘やから頭悪いんちゃうかってみんなは言うてるけど、俺はそんなこと思ったことはない
なんていうか、強いていうなら妖精や。名字名前は、妖精
いっつもふわふわしとって、微笑みを分けてくれて…。普通にしてたらどこにでもおるような女の子やけど、まあ発言がなんともメルヘンチックやからなあ。そこが可愛いというかなんというか…
「ねー白石くーん、なんでチョコもろうてくれへんの?」
「すまんなぁ、もう入れる袋ないねん」
「蔵はモテすぎて困るわ〜…」
俺に寄ってくる女はみんな、名字さんとはオオチガイ。化粧も濃いし、えらいキンキンした声で話しかけてくる。やっぱ、名字さんの声のトーンが俺にはちょうどええ気がする
せやけど、せっかくのバレンタインデーやのに、名字さんからチョコはもらえへんのかな〜…?なんて期待していた俺はなんか空しくなってきた。そんな時、帰り際に大通りをぶらぶらしていると、名字さんを見つけた
(なにしてんねやろ…?)
名字さんにしてはめずらしく、すこし焦った感じで歩いていた。気になって名字さんの行くままについていってみると、ついた場所は、空中庭園というのにふさわしい植物園だった
「名字さん…?」
「あ。白石くん…」
そこで花を眺めていた名字さんに声をかけてみると、いつものように優しい一声が返ってきた
「ここで、なにしてんの?」
「ここね、この時間になると、妖精さんが現れるさかい。急いで見に来てん」
「妖精さん?」
すると、名字さんはにっこりと頷いた。彼女にしてはすごく、嬉しそうな笑顔だった
「白石くんも妖精さん見に来たん?」
「…せやな。俺も見たいわ。妖精さん」
むしろ、君が妖精やねんけどな。とはさすがに言えず。ただじっと名字さんが見つめている花を見ていた
「…せや。今日、バレンタインやけど、名字さんは誰かにあげたん?」
「……私、バレンタインデーにチョコはつくらん主義やから」
「へえ、めずらしいな」
「チョコ食べたらな、黒い魔物が口の中を這いずりまわるから、みんなにあかんと思って…」
「はは、虫歯か〜…。そら嫌やな。名字さん優しいな」
「……」
お、照れてる。なんやこの子、全然普通の女の子やん。
「そっかー、そう聞いたらちょっと残念やなあ。俺、名字さんのチョコなら虫歯になってもええと思ったんやけど」
「…………チョコ、やなくて…」
「ん?」
「チョコやなくて、気持ちはかいた」
手紙を渡され、俺は顔を赤くする子の隣で手紙を開いた
そのとき、あたりにシャワーが降り注ぎ、そのしずくが夕日に照らされきらきらと輝きだした。まるで、妖精が踊っているかのように
「気持ち、ありがたく受け取っとくわ」
大きなハートの手紙を見ながら
@零羅さん
今回はバレンタイン企画に参加してくださりありがとうございました!白石と不思議ちゃんというおいしい設定をリクエストしてくださり、ほんとうに楽しく、そしてときめきながら書くことができました。体調のほうも心配してくださってありがとうございます^^これからも元気に明るくお話を書いていこうと思います