だれか私に愛と勇気と越前くんをください
「…………」
話しかけるタイミングがわからない
越前くんは授業中はたまにだけど授業中以外でもいつも寝ていて、肩を叩かないと起きないほど。さっきから勇気を振り絞った女の子たちが越前くんの近くで話しかけるけど、みんな肩を叩かないから彼は未だ夢の中
越前くんの肩を叩かないなんてみんなもあたしと同じ程度の勇気しかなくって。分が悪いわけじゃない。幸運なことにあたしは越前くんの隣の席をキープ。だけど、先ほどからあたしも含め女子の数人は肩を叩いて起こしてあげたいのに、うずうずするばかりで誰も起こしにいかない
みんな馬鹿だけどあたしはもっと馬鹿だ
あたしに限ってはそんなに話せないわけではないと自分では思っているけど、実際は分かんないとこを聞くだけか、あわよくば教科書を見せてもらうくらい。肩を叩いてもなんらおかしくない関係だと思うけど、こういうときに限って手が出せない。(教室の入り口に女の子たちの目が光ってるからかな?)
仕方なく昼休みまで待ってみた。だけど昼休みになると越前くんはふらりと消えてしまっていた。探しに探し回って、教室へ戻ってみると、彼はいつのまにか定位置の席に腰を下ろしていた
「え、越前くん、いつ帰ってきたの?」
「さっき」
「探したんだけど…」
「…なんで?」
「えっと、それは…」
チョコを渡したかったから、
と言おうとした瞬間、チャイムの音と同時に先生が入ってきて、「授業始めるぞー」と馬鹿でかい声で叫んでしまい、またもタイミングを失ってしまったのだ
「………………」
「で、なに?」
「…あとで話す」
あとで話す、なんて言って内心ほっとしてる自分がいたことに罪悪感も感じたけど、さすがにあそこでチョコを渡すと先生に叱られそうだ
仕方ないから放課後まで待ってみようと思った。
だけど人生ってそんなにうまくいかない。越前くんは図書委員だとかなんとかで、テニスコートに出てきていなかった。そして最悪なことに、部活でしくじってしまったあたしは先輩に怒られるわ、顧問に注意受けるわで、気づいたらテニス部も終わっていた
なんて運の悪さ。運が良かったのは席だけだったのか。いや、まだ諦めるのは早い。前方に帰宅途中の越前くん発見。……だけど、隣に二年の先輩が…桃城先輩だっけ…。どうしよう。これじゃあデジャヴどころか状況はもっと悪い…。とりあえず先輩と別れるまで待ってみようと思う
……
……………
…………………………遅い
え、まだ?あの先輩めちゃくちゃ喋ってるんだけど。ていうか越前くんほとんど相槌してないんだけど。先輩の一人喋りじゃん!…あーもう先輩早く話切り上げてくれないかな…?
あ、ようやく先輩と別れた!い、今しか…!いや待って待って、まだいろいろ人がいる。あああもうどうしたらいいの…!
「なに一人でうなってんの」
「……………え?」
電柱に隠れていたはずなのに、後ろを振り向くと越前くんがいた
「大丈夫?頭でも痛いの?」
「え…いや、そうじゃないけど…」
「じゃあこんなとこでなにしてんの?あんたこっち方面だっけ?」
「いや、ちが…」
「…もしかしてさっきからつけてきた?」
しまった。こっち方面だと嘘つけばよかった。
「…」
「白状したら?」
「……越前くんに」
「うん」
「チョコ、渡したくて」
「…」
あたしは恐る恐るかばんの中にずっと入れていたラッピングされたチョコをようやく越前くんに渡した。越前くんは、小声だけどあたしに聞こえるくらいにありがとうと言って受け取ってくれた。ようやく、渡せた。長かった一日は幕を閉じたのだった
「あ、そうそう越前、言うの忘れてたんだけど……って、なんだ?その子お前の彼女か?」
…桃城先輩が茶化しに来るまでは。あたしは彼女という言葉に意識しすぎて赤面せざるを得なかった。
@憂さん
バレンタイン企画に参加してくださりありがとうございます。憂さんの細かいシチュエーションに妄想が膨らみすぎてしまい、一時頭がパンクしていました^^ 連載の越前くんにもきゅんきゅんしていただいて光栄です。これからも頭がパンクしない程度に更新していきたいと思います。良いバレンタインデーを