バレンタインデーキッス! | ナノ

「さ・む・い〜!!」

寒い寒い寒い!雪まで降ってきたよ…!雪なんて降らないって天気予報で言ってたのに!

昔はそんなことなかった。雪が降るなんてことめったにないし、寒い中でもへっちゃらだったからよく雪の中を走り回って遊んでいた。今となってはただ寒さを増すだけのものとしか見ることができなくて、雪は嫌いだ

辺りはもう7時になるというのに電灯もまだ付いたまま、周りが見えないほどではないけどそれなりに暗い。時々こんな朝早くに走っている人とすれ違うと、気が知れないと思って睨んでしまう。そのとき顔があまり見えてないと思うから睨んでいるとその人は気づいてないだろう

なぜこんなに早く、こんなに寒いところにあたしがいるかって?あたしは、とある人を待ち続けているだけ。あたしの計算だと、彼は朝から人の波に埋もれて絶対あたしなんかが手出しできるようなところには来ないと思ったから、朝早くこの場所で待ち伏せして一番に渡そうと考えた。こんな寒い日に待ち伏せする子なんていないから好都合だった。あとは彼が来るのを待つだけ

…待つだけなんだけど…しまった。越前くんはとんだ遅刻魔だった!
そのことを計算に入れるのをすっかり忘れてた!だからあたしこんなとこで1時間も立ち尽くしているんだ!と1時間経ってようやく気づいたのだった

時刻はもう8時過ぎ…。このままだと越前くんだけじゃなくあたしも遅刻してしまうよ…。しょうがない、諦めて学校で渡そう。と思った瞬間、ばたばたと扉を開ける音が聞こえて、彼がやってきた


「…!おわっ、びっくりした…!」
「え、越前くん…!やっと来た!」
「は?」
「あんた!あたしをどんだけ待たせたと思ってんの!1時間だよ1時間!雪まで降ってくるし暗いし寒いし…!あーもう寒い寒い!」
「……」

あたしは言うだけ言って冷たくなった手をこすり合わせた。息まで吹きかけるけど全然温まらない。そういえば今日最低気温は−2度とか言ってたっけ?

「…ふーん。寒いの?」
「見て分かんないかなあー、寒いに決まって…っとぉ!?」

なぜこんな女らしくない声を出したかというと越前くんはあたしの手を握って息を吹きかけてきた。え、ちょ、えええ!越前くんの息が!吐息が!家の中にずっといたせいか、越前くんの握る手はすごく暖かくて、冷たい手のひらだけでなく手の甲まで温まった。手のひらについていた雪も一気に水に変化していった

「これでいい?」
「あ、ありが…とう…」
「で、お礼は?」
「は?」

「今日ってバレンタインだよね?だからうちん家で待ってたんでしょ?」

越前くんはすべてを見透かしていたかのように、手のひらを差し出してきた。…まあ、それが一番の目的でここにいたわけですが…。あたしは越前くんに可愛くラッピングされた箱を渡した。中を開けてチョコをひとつつまんで食べると、うまい、と口を頬張らせていた

「じゃ、手でもつなぐ?」
「は、はああ!?なに言ってんの!あたしたちまだ付き合ってないよね…!?」
「ふーん、いつかは付き合っていいの?」
「いや…まあ、そりゃ…いつかは…」
「早くしないと遅刻すんだけど」
「…あああっ!」

あたしの手を要求する越前くんの手は、無事要求通りつながることになりました

@皆瀬結衣さん
バレンタイン企画に参加してくださってありがとうございます!雪の降る外でのシチュエーションをいただいて、情景を浮かばせながら書かせていただきました。今回はSで大胆な越前くんを書きながら自分も暖めてもらいたげふんげふん、そんな妄想も抱きながら書きました。お気に召していただけたら光栄です。
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