seisyun | ナノ



あつい。この日差しの中、顔がとろけそうなくらいの汗を掻いて、あたしは灼熱に溶けてしまいそうだった。テニスって、なんで外でやるもんなのだろう。なんで屋内のスポーツじゃないのだろう。ソフトテニスだったら奥内でやることもできるらしい。ソフトテニス部に入ればよかった、ああ、選択ミスったわ。この暑さで久しぶりにポニーテールしてみたけど、汗かきすぎて毛先から汗が出ている。どんだけ汗っかきなのあたし。この汗の量のせいで、自前の水筒の中身は空っぽになってしまったので、仕方なく水道水を汲みに行くことにした。たぷたぷ、と音を立てて水が水筒の中へと入り込んでくる。その様子をぼーっと見つめていたら、不意に頭ががくんと後ろにひっぱられた。大方ポニーテールをひっぱられたんだと思う。そのひっぱった当人は誰かというと、

「越前くん…なんでひっぱんの」
「……気まぐれ」

越前くんも休憩がてらに水道水を飲みに来たのか、手にはテニスラケットが握られていた。これじゃあ耳を猟師に掴まれた兎みたいですよ、越前さん。ヤメテ、なんだかそのテニスラケットが銃に見えるよ。

「あんたでもポニーテールするんだ?」
「暑いからね。越前くんも帽子暑くない?蒸れるでしょ」
「べつに。むしろ影あるから涼しいし」

それより、と越前くんの視線の先があたしの持つ水筒に向けられた。でか過ぎでしょ、何リットル飲むの。信じられないと言わんばかりにあたしの水筒ちゃんに文句をつけた。いや、あたしの胃袋にか。どっちにせよ、気に食わん。人間の原理ですよ、三大欲求ですよ。…あれは食欲か。とにかく、暑い、これに限る。

「……」
「……」

ところで越前くんはなんでずっとこの場所にいるんだ?しかもまだ髪ひっぱってるし。いい加減離してくんないかなあ、水汲みにくいんだけど。と、切り出すタイミングを逃して、あたしと越前くんは妙な沈黙を保っていた。…そういえば、髪の毛で思いだした。

「…ねえ、あたし毛先から汗でてない?」
「は?うわ、ほんとだ…」

あっ、こいつ手離しやがった!あたしが毛先から汗でてるのに気付いて手離しやがった!なんてやつだ。というか今まで気づかなかったの!?

「あんた、どんだけ汗かきなわけ。異常でしょ」
「うっさいなー!だからこうやって水汲んでんでしょー!」
「せいぜい水道の水全部汲まないようにね」
「全部汲みません!」

そうこうしているうちに、水筒の水は満タンまで達してずっしりと重みも増した。これを持って行くのはとっても大変だ。まあパワー強化と思ってがんばればいいか。グレイト精神でがんばりましょうか。そしてあたしは水道から離れると、越前くんが交代で水道の前へと進んだ。あたしは部活に戻ろうと水道から遠ざかる。

「ねえ」
「ん?」
「似合ってる」
「……え?」
「なんでもない」
「ちょっなんて言ったのいま!聞こえなかった!もっかい言って?」
「もう言わない」

2012/08/13
あすかさん、この度は青春フリリクにご参加くださりありがとうございます。越前くんと愛子の絡みが可愛いというコメントをいただき、うれしかったです。今後もこんな感じで二人は絡んでいきますが、どうぞ温かい目で見てやってください。ありがとうございました。