ひたすら越前くん! | ナノ


「あ」

冷や汗がどっと背中を伝った。
私の手元にあったはずのアイスコーヒーは姿を消したかと思いきや、ごんっと音を立て割れることなく床へ転げ落ちていた
しかし、肝心の満タンに入っていた中身は数滴しか見えず、どこにいったのかと辺りを見回した。だがそれはすぐに見つかった

「………つめた…」

中身はすべて大事な大事なお客様の胸上からすべてかかってしまっていた。これが私の冷や汗の原因だ

「もっ……申し訳ございません!!!すぐにクリーニング代を…!」
「その前に、拭いてくんない…?」
「あっ…はい…!!」

その後すぐさまタオルを持ってきたのだけれど、タオルだけでは拭いきれなくて、店長に言われて更衣室へとお客様を連れて行き、バイト服を貸し出した。服が乾く間だけ貸し出すらしい

お客さんは見た感じ学生で、黒髪に大きな瞳が特徴。バイト服がとても様になっていて、ふつうにカフェで働いていてもおかしくないくらいだった

「に、似合っていますね…」
「…………あっそ」

…だけどカフェ店員にしてはすこし無愛想かも。

「本当に、申し訳ありませんでした。えっと、なにかお詫びを……」

こういう場合、お客様が頼まれたものを全額返金したりとか、次に来店していただいたときに使えるタダ券とかをあげる。だけど、このお客様が口にした言葉は思いもよらない言葉だった

「じゃあ、電話番号教えて」

耳を疑った。疑いすぎて、は?と口にしてしまったくらいだ。たしかに、本来店員と客人は接点を持つことはできない。メールアドレスが書かれた紙をもらうこともあるが、それらはすべて処分されて、店員と接触ができない形になる

「それくらいできるでしょ?」
「え……いや、それは……」
「だめなの?じゃあクリーニング代払ってもらうことになるけど」
「う………」

「今はあんたと俺、二人っきりなんだから、いいでしょ」

吐息まじりの声をかけられ、私は鳥肌が立ってしまうほど彼の誘惑に乗せられそうになる

「なんで……私を……」
「気になってた」
「え…」
「俺、結構常連のつもりだったんだけど。あんたいっつも気づかないし、話しかけようにも忙しそうで話せそうになかったんだよね」

そういえば、私はいつも注文や接客に追われていて、お客さんの顔なんてあまり見てこなかった。その癖オーダーとかは間違えるし、今日だって飲み物をこぼしてしまうミスもする

「しかもあんた、ドジばっかだし」

お客様のおっしゃる通りです

「だから、番号おしえて」
「メール…じゃなくて?」
「電話。俺メールとか面倒だし」
「………わかりました…。でも、このことは店長には言わないでくださいね?怒られてしまいますから…」
「それは言わないよ。言ったらアドレス消されそうだし」

あたしはしぶしぶ携帯を取り出すと、番号を教えて着信した

「越前リョーマ。俺の名前だから」
「……私は」
「わかってる」

あ、名札……か。すぐに胸元にある名札に気付いた。うちのカフェではフルネームで書いてあるのですぐにわかる

「じゃ、今夜電話するから」
「…はい」
「あ。でもこの服借りれるんなら、俺もここで働こうかな。それなら文句ないよね?」
「え?」

翌日、彼は本当にうちのカフェでアルバイトをすることになった

2011/10/29
オチわっかんねええええ\(^o^)/