そうだよ。べつに越前くんと一緒に寝るわけじゃないんだから、こんなに気を張らなくってもいいんだよ。そうだ、プチ修学旅行と思えばいいんだ。だって修学旅行には男子もいるけど部屋は別々なわけなんだし。まあ恋人同士はそういう目的で見てるかもしれないけど、越前くんとあたしはそういう関係ではないわけだから大丈夫だ。考えすぎてたのはあたしの方で、この旅行にそんな下心もないわけだから、気にしなくていいんだ!
「予約してあるお部屋は一部屋となっておりますが…」
聞いてません。
あたしそんなの一切聞いていませんが。健全な男子がいるのにも関わらず一部屋に女二人に男一人で寝ようとしてた友達の心情がまるでうかがえない。たしかに、友達に丸投げしてたあたしにも非はあるような気もするけど、あたしに任せて☆と自信たっぷり?に言った友達だから任せたわけで。だけどこれは、世間一般的に考えておかしいでしょ。
「………………」
「………………」
とりあえず女将さんに案内されて一室の和室へと案内された。どうぞごゆっくりと、女将さんは上品に襖を閉めていった。ごゆっくりなんてできない。あたし今から脱走してしまうかもしんない。どうしよう。これ本当どうしたらいいのあたし…。
「…温泉」
「えっ…?」
「いくよ」
どぎまぎしているあたしをよそに、越前くんは早々と温泉へ行く準備を整えていた。それはもう電光石火のごとく。越前くん、相当たのしみにしてたんだろうな…。なんだか持参しているものがあたしとはだいぶ違う。桶とか持ってきてる時点で越前くんは専らの温泉オタクなのだと感じた
ふう、と日頃の疲れとこれまでの状況への興奮をこの溜息で一気に吹き飛ばす
温泉はやっぱり良い。特に露天風呂は家のお風呂とは違って、景色もきれいだし自然を感じられるし言うことない。ここの温泉っていろんなところを回れるんだ…。いろいろ回ってみようかな。あたしは湯船から上がろうとした
そのとき、見覚えのある影を見かけとっさに湯船へと逆戻り
越前くんだ…………!えっなんでここにいるの…!?ていうか、そんなことより…越前くん…全裸……!!
「あ。いたんだ…。って、なんで目隠してんの」
「だ、だって越前くん裸…!」
「ああ、これね。温泉人なら全裸は普通でしょ。隠すのがおかしくない?」
いや、ちがう。温泉人どうこうより性別を意識してください。越前くんのすべてを見てしまったあたしの身にもなってください。っていうかなんでそんなに冷静でいられるの…!?
「俺も入っていい?」
「えっ、でもここ…」
「混浴って知らなかったの?立札に書いてあったでしょ」
全然知らなかった…。だからあんまり人が来なかったのかな…。疲れてたから全然見れてなかったし…。あたしは越前くんに体を見られないようにそばに置いていたタオルをお湯の中に着け、自分の体を隠そうとした
「温泉の中にタオルつけないでくれる?それ、マナー違反なんだけど」
「え、ええっ…!で、も…それじゃあ……」
「大丈夫。この湯気であんたの体見えにくくなってるし」
越前くんは本気でマナー違反だと思っているんだろうけど、あたしは裸を見られているんじゃないかと心臓が爆発しそうで気が気じゃなかった。むしろ平然と温泉を楽しんでいる越前くんが異常に見えて仕方ない。なんで越前くんは裸でいるあたしにそこまで平常心を保てているのだろうか…。まさか、それってあたしに興味がないとか…?それはそれでちょっとショックな気もする
「……そっち行ってもいい?」
「えっ!?」
「隣にいれば裸、気にしなくて済むでしょ?」
いや余計気になる気もするんですが。越前くんは本気でいってるのかそれともただの天然なのかよくわからない。あたしだけがどきどきしていて越前くんは平気だなんて卑怯だよ…
それからあたしは恥ずかしくなってしまったのと、長時間入り続けていたためのぼせてしまい、温泉から上がることにした。あたしが旅館に戻って、その3時間くらい後にようやく越前くんは帰ってきた。どんだけ温泉好きなの、越前くん
2011/10/08