愛子ちゃんシリーズ | ナノ


「今日からバイトとして入ることになりました。上原愛子です」

あたし、上原愛子は、今日からこの肉々苑で働くことになりました。時給もいいし、家からも近いしっていうのが理由です。自己アピール?笑顔とあいさつだけは得意中の得意です。そんなあたしがバイトを始めて3週間後に、そいつは入ってきた

「越前リョーマっす…。よろしくおねがいします」

あたしと正反対。無愛想でクールでなんか生意気そうなやつ。唯一共通点があるとすれば、同い大学で同い年だということくらい


しかも生意気なことに、越前くんとは決定的な差が生じている。それは、ミスの量だ

「愛子、お前注文間違えてくるとはどういうことだ」
「愛子ちゃん、カルビ持っていき忘れてる!」
「愛子、オーダーまちがってるよ」

あたしでさえたった1週間で数えきれないくらいのミスをおかしている。ていうかどんだけ注文間違えてんのあたし。泣けてくるね。しかし、越前くんは違った。ミスの量が明らかにちがう。今のところ、越前くんは入ってきてから1週間たっても何のミスもしてない。なんの問題もなしだ。これはいったいどういうことなのだろう…?

「あんたがミスしすぎなだけだから」

なんと!衝撃的だった。問題はあたしにあった。ていうか先輩に向かってその言い方はないデショ!

「先輩もなにも、たった3週間の差じゃん。つーか同い年だし」
「でもあたしが先に入ってきたもん!」
「じゃあそんなミスしないでよ」

たしかに…!でも、なんてやつだ…!あいつ絶対あたしから下剋上しようとしてる!ていうか図星つかれて腹立つー!あたしはそんな生意気な越前くんをライバルと見なし、彼に負けないことを誓った


「ねえ、なんであたしこんなにミスしてしまうんだと思う?」

あたしのミスの多さに、店長にこっぴどく怒られてしまった。泣きそうだったけど、意地になって泣くのだけは我慢した。その日のあたしはやけにナーバスになっていた

「知らない。あんたが馬鹿なだけじゃない?」
「…知らないならなんにも答えないでよ」

逆に傷つくだろうが!

「あたしだってね、なにも考えてないでやってるわけじゃないんだよ。ちゃんと確認してオーダー取ってるつもりだし、ミスはしたくないのに…」

なのにミスは増えるばかり。あたし今までなにを学んできたんだろうって後悔もつのってくる

「て、こんなこと越前くんに話すもんじゃないよね。ライバルなんだし!」
「…いつライバルになったわけ?」
「さっき」

すると越前くんは一瞬静止した

「ま、そんなに凹まなくてもいいんじゃない?」
「…なんで?」
「ミスすればするほど成長するっていうし」
「…ミスし続けたら良いってこと?」
「しすぎはだめだけど…。失敗は恐れないようにすればいいってこと」
「……よくわかんない」
「日本語学び直せば?」
「うるさい!」

なんだ、やっぱ馬鹿にしてんじゃん。越前くんにこんな悩み打ち明けなきゃよかったよ…

「でも」
「?」
「少なくとも、あんたのそういうがんばってるとこ、嫌いじゃないから」








…………………………………ん?それ、いったいどういう…?

すると店長からそろそろ再開するよと声をかけられて、越前くんはさっと椅子から立ち上がった

「ほら、行くよ」

あたしは越前くんの言った言葉に大きな疑問が宿ったまま、今日もまた仕事をするのであった

2011/07/08
お題 空愛さまからいただきました。
ぴったりなお題をありがとうございます