fiction | ナノ



あたしと越前くんの身長差は、あまり変わらない。ほぼ同じと言ってもなんらおかしくはない。あたしの顔は越前くんの肩にすっぽりとはまるくらい、肩の高さがちょうどよかった。抱き心地も抜群だなんて、なんで今頃こんなことわかっちゃうんだろうね。

越前くんがいなくなる。思いもよらない出来事に、わけがわからなくなった。アメリカに帰ってしまうんだとか。それもこんな急に言うもんだから、あたしは混乱してしまい、ぼろぼろと涙を流すんだ。あたしの泣き顔に驚いたのか、いや、冷静になって、この帰国子女は慣れたようすであたしを抱き寄せ、顔を見ないように肩へと引き寄せた。

アメリカに行く、なんてことは一言も聞いたことがなかった。というより、あたしに言ったのが初めてらしい。なぜだか、あたしに一番に言いたかったんだって。無性にうれしくなった。あたしが越前くんの一番になれたということに、あたしだけに打ち明けてくれたことに。特別ということを感じて、その余韻に浸った。だけどそんなのも一瞬だけで、今さらそんなことされてもなぁ、と思うのだ。

「悲しいの?」

ぐずぐずと、鼻をすするあたしに、なんだか嬉しそうに話す越前くんがすっごく鼻に着く。むかつく。なぐってやりたいけど、なんでか拳に力が入んない。すごく悔しい。越前くんの服をつかむほどにしか力がでなくて、ものすごく敗北感に迫られている。涙がとまんない。

「なんで急に、いなくなるの」
「…」
「なんでいっつも、突然なの」
「……ねえ」
「なに!」
「悲しい?」

涙で視界が見えなくなってしまったあたしは、もう越前くんがどんな顔であたしを見ているのかわかんなくて、その上質問に全く答えてくれないことに、あたしは余計苛立ちを抱え、「悲しいわばか!」なんて、大声で怒鳴ってしまった。すると、越前くんは、そっとあたしの頭に手を添えて、やさしく撫でてくれた。なんとなく、抱きしめる力も強くなっている気がする。

2012/11/30
なぜか越前くんとの別れ話は何個でも書けそうな気がする