fiction | ナノ




ざわざわと人がうごめく。多くはサラリーマンだけど、今日は休日ということもあって中高生もまばらにいる。近くにいるおばちゃんたちは、暑い暑いと手で仰ぎながら街を歩いている。毎日体育館にいるせいか、あまり外に出ないので、日差しがまぶしくて焼け焦げてしまいそうだ。暑さに耐えられなくなった俺は、木陰にて彼女を待つことにする。彼女との待ち合わせ時間は一時。腕に付けた時計を見ると、もう20分ほど過ぎている。少し遅刻する、と連絡は来ていたからもうすぐだろうか。彼女からの慌てたメールを何度も読み返しては、まだかまだかとそわそわしていた。どんな服を着てくる?どんな髪型?自分の服はどうだろうか。おかしくないだろうか。彼女の服は、いつも制服しか見ていないから、普段の服がどんなものかよくわからない。かわいらしいフェミニンだろうか、それとも意外とボーイッシュなのだろうか。脳内でいろいろ彼女の服装を予想しながら、何度も時計を見た。すると、ぱたぱたと足音を鳴らし、走ってくる彼女の姿が見えた。光樹!と俺の名前を呼んで走ってくる彼女の姿は、きれいな太ももが映える短パンに、ふんわりとしたブラウスを着ていた。俺は一瞬、彼女の姿がわからなかった。普段が普段だからなのかもしれないけど、うっすらとメイクもしていて、ぱっと見だけでは別人に見えてしまう。なんだろう、無性にうれしくなった。

「遅れてごめんなさい!」

何度も何度も俺の前で謝る彼女に、怒ってないことを伝えると、彼女は安堵の溜息をつく。なにかおごるね、と言われたけれど俺は、ああ、としか言えなくなってしまっていた。この子は誰だろう…。俺がいつも教室で見ている名字名前には到底見えないくらい、

「かわいい」

つい、ぽろりと本音が出てしまっていた。彼女の顔をまじまじと見ていると、みるみる赤く染まっていって、それが伝染したかのように、俺の顔も赤くなっていることに気付いた。

 細胞までも歓喜する

2012/09/04
企画「慈愛とうつつ」さま提出