fiction | ナノ



今日は部活も休み。毎日部活ばっかのせいで、俺の机の上には夏休みの課題が山積みになっていた。ということで、同じく部活が休みな彼女に甘えて課題を手伝ってもらうことにする。名前ちゃんは俺が課題を持ってくることを予想していたみたいで、快く俺の頼みを承諾してくれた。だけど俺が持ってきた課題の量までは予想できなかったみたいで、玄関で課題を抱え込んでいる俺を見て、うっ、と顔をひきつらせていた。

名前ちゃんの家へ入ると、「涼太くんいらっしゃい。暑かったでしょう」と名前ママが笑顔で迎え入れてくれた。名前ママと俺は結構仲良しだ。名前ちゃんの小さいころのこととかを、ママからこっそり聞いたりなんてこともある。「麦茶とお菓子もっていくから待ってて」名前ちゃんの部屋まで案内されると、名前ちゃんは一人リビングへと戻って行った。相変わらず、女の子らしい部屋だ。ふと、名前ちゃんの机の上の透明な小箱に、俺があげたブレスレットが見えて、大事にしまってくれているんだなあと思い顔がにやける。それから大人しく座っていると、名前ちゃんが麦茶とお菓子を持って戻ってきた。

*

蝉のうるさい鳴き声と、かりかり、というシャーペンの筆圧がかすかに聞こえて、俺たちは丸テーブルに課題を広げながら着々とこなしていた。暑くてクーラーつけたいと言ったけど、名前ママが節電とうるさいらしいので、仕方なく我慢することにする。まあ、部屋の窓と扇風機があるし、少しは涼しいから、いっか。右隣に座っている名前ちゃんは、夏らしくポニーテールをしている。そのうなじからはうっすらと汗を掻いていて、なんだかいやに煽られてる気がしてならない。すると、ふとその首筋に赤い斑点があるのが見えた。

「あれ、名前ちゃん、首筋蚊に刺されてるっスよ」

俺が教えてしまったことで、名前ちゃんは自分の首筋に手を当てた。でもまったく痒みはないみたいで、爪を立てて掻くことなく、さわさわと手で触れていた。それを見ていると、なんだか赤い斑点に嫉妬を感じてしまう。だって、なんかキスマークみたいじゃん…。俺はその手を掴むと、斑点とは別の場所に口づけた。名前ちゃんはびっくりしたみたいで、慌てているみたいだった。俺はその反応もたのしみながら、じゅっと厭らしい音を立てたり、その場所を舐めたりした。…ちょっとがっつきすぎたっスかね。

「…なにやってんの」

唇を離すと目の前に名前ちゃんの顔。怒っているかと思いきや、意外とそうでもない、っていうか、感じて、る…?頬はやけに赤くて、息もすこしだけ乱れてて、あ、これはヤバイ。俺はその息が行き来する唇に吸い寄せられるように、徐々に距離を縮める。すると、なんの予兆もなくノック音が響き渡った。

「ちょっとお母さん買い物に出て来るわね、って、あら?お邪魔だったかしら」

名前ママが来たときには、俺は定位置に戻って勉強をしているふりをしていたけど、あまりにもいきなりすぎたせいか、うまく誤魔化せなかったみたい。名前ママは「お邪魔虫は退散しますから、どうぞ続けちゃって」と今にもハートマークがおまけで付きそうな感じで扉を閉めた。あれ、おかしいや、さっきより暑い。

2012/08/17