fiction | ナノ




ほんと、あたしっておっちょこちょいを通り超えて、ただのドジだと思う。それよりなにより、今日はほんと運が悪い。なにをしてもだめ。なにもないところでこけちゃうし、コンビニで買い物を済ますとビニールが破れてアイス落としちゃうし、挙句の果てには、携帯電話を落とすなんてことまで…。携帯電話は幸運なことに交番に届けられてたみたいで、無事手元に戻ってきたからよかったけど。携帯を開くと、着信が何件も入っていた。履歴を見てみると、氷室辰也の名前が一面に広がった。前日に話していたお母さんの名前が見えないくらいに。何分か単位で彼の着信が入っていて、それほど心配させてしまったのか、と思うと罪悪感を感じた。

『名前!無事なのか?』

あたしは辰也に電話をかけると、彼はものの数秒で電話に出た。その第一声はあたしの名前で、その次は安否の確認。あたしはびっくりして、うん、としか言えなかった。辰也はいつもあたしのことを心配してくれるけど、ここまで焦った彼の声は今までに聞いたことがない。

『よかった。今どこにいるの?』
「えっと、交番…」
『……なにか事件でも起こしたのか?』
「ち、ちがうちがう!携帯落としちゃって、交番に取りに行ったの」
『そうか…でも、無事でよかった』

交番=事件という発想には驚いた。さすがアメリカ帰り…。それから、会いたい、と言われて辰也は練習の合間を縫ってあたしに会いに来てくれた。会うといきなりハグされて、あたしは驚いて混乱してしまった。周りは何人か人がいるし、視線も痛い。あたしは恥ずかしくなって、辰也から離れてしまった。彼はあたしが拒否する理由がわからなくてきょとんとしていたけど、あたしの真っ赤な顔を見て照れているだけなのだと分かった途端、満面の笑みを見せた。ああもう、かっこいいんだから、こんなところでそんな笑顔見せないでよ。

「心配したよ」
「…ごめんなさい」

辰也は、あたしの頭を大事そうに撫でる。大切にされているというか、愛されてるなあ、とこういうときに感じる。携帯が繋がらなかったときは本当に慌てたらしく、チームメイトの紫原くんにめずらしいとさえ言われたほどらしい。そう聞かされると、本当に心配をかけてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

それから、辰也といると今までの悪運が嘘のように、あたしの前から姿を消した。いや、訂正しよう。正確には災難がすべて辰也に降りかかっているのだ。打ち水を間違ってかけられたり、走り回っている子どもにぶつかったりと、ほとんどは、あたしをかばってのことだ。だからあたしは余計に罪悪感を感じてしまう。だけど、辰也は全く嫌な顔しないで、あたしを全力で守ってくれた。悪運は、二人で半分こにしたら辛くないだろう?といい感じに髪が濡れてきらきらと光っている辰也に、あたしは惚れる以外の選択肢を失ってしまうのだ。

2012/08/07
運勢といえば緑間くんですが、あえての氷室くんで!