fiction | ナノ




汗が止まない。今日は例年より気温が暑く、真夏にも負けない猛暑なのだとか。天気予報はそう言っていたけど、あたしは天気を甘く見ていた。まさかこんなに暑いとは…。夏をなめていた。しかも最悪なことに、タオルを忘れてしまって、この汗を食い止めるものが手元にない。この暑さを、どうしよう。この坂道には木陰らしい木陰もなく、ただアスファルトが太陽の熱の代わりとなって、じわじわと暑さをわき上がらせている。そんなところへ、天の恵みが舞い降りた

「緑間くん…!」

そこへ、日傘をさした緑間くんが…!まさに、女神!今日のあたしは運がいい!あたしはすかさず緑間くんのさす日傘の下へと滑り込んだ。案の定、緑間くんには驚かれてなんで入ってくるんだ!って言われちゃったけど、今日だけは許して!そういえば、なんで日傘なんて持っているのかと聞いた。するといつもの占いのラッキーアイテムなんだとか。あたしは、周りで目立っている日傘を見て、似合ってるね、なんて笑っていると、文句を言うなら出ろとまた言われてしまった。それからもぶつぶつ文句言ってるみたいだけど、あたしの汗の量に気付いて、文句を言う口が止まった。

「……なんだお前、びしょ濡れなのだよ。雨でも降ったのか?」
「いいえ、汗です」

緑間くんには信じてもらえなかったけど、そりゃあ無理もない。あたしは元からかなりの汗っかきだ。緑間くんの日傘の中にいるから、さっきよりはマシだけど…それでも流れる汗は止まらない。すると、緑間くんはあたしに日傘を持たせて、エナメルバッグのチャックを開けてごそごそしだした。そして、あたしの頭の上に、取り出したタオルを乗せるのだ

「お前…教室の中はクーラーが効いてるから、寒くなって風邪ひくぞ」

緑間くんの親指が、あたしの額を伝う汗をタオルできれいにふき取った。あたしの前髪は視界が良くなったように分けられて、緑間くんの顔がはっきりと見えるようになった。ありがとう、とお礼を言うと、緑間くんはすこし照れたようにあたしから目をそらした

「なんだか、相合傘みたいだね」

あたしがこんなこと言っちゃったから、緑間くんは余計に恥ずかしくなったみたいで、早くここから出ろ!って怒鳴られちゃった。

2012/07/30