fiction | ナノ



僕は、透明人間だ。喜びも怒りも悲しみも、すべてを通り抜けてしまう。その証拠に僕はあまり表情が変わらない。

「もっと、よく顔を見せてください」

彼女は泣いていた。僕は、透明人間のはずなのに、彼女が泣いているととても胸が苦しくなる。彼女の悲しみは、僕を通り抜けることなく、心の中でせき止められてしまう。何故だろう。涙を流す彼女は、僕に泣いている顔を見られたくないのか、顔をそむけたままでいたので、僕は彼女の顔を両手で優しく包んで、僕の目の前に向かせた。彼女の唇は悲しく歪んでいて、目には大粒の涙がたまって、頬を伝っていた。彼女の顔を見ていると、僕まで泣きそうになってしまう

「どうしたら、涙を止めてくれますか」

あなたが泣いていると、僕も泣いてしまいそうなんです。
強くてあなたを守れるような男でいたいのに、僕が泣いてしまったら、彼女の涙を止めることができない。そんなことにはなりたくない。僕は静かに、彼女の涙があふれる場所を唇でやさしく受け止めた。

2012/07/29
この前の需要アンケートで黒子くんが一位でした!さすが主人公!