fiction | ナノ



今日もまたちがう子。きのうはまた別の子と一緒にいた。この光景を見かけるのはこれで何度目だろう。街へ出かけると必ずといって良いほど、涼太が女の子を連れて歩いているのを見かける。まあ、あのルックスで女の子を連れていないのがおかしいわけじゃないけど、それにしても毎日毎日ころころと女の子が入れ替わっている。まず二日続けて同じ女の子と歩いているのを見たことがない。幼なじみのあたしとしては、もう慣れてしまったことなので、以前のように怒ることもなくなってしまった。一度だけ、涼太に迫られたことがあったけど、それも他の女の子たちと同じレベルだったのだとしたら、と思うとたまに胸が痛くなる。あたしだけが涼太のこと、ぜんぶ知ってると思っていたけど、今ではもうそれも他の女の子たちにも知られているんだと思うと、さびしいかな。

「名前…………」

涼太とあたしの家は隣同士だ。家へ帰ると、玄関の前で涼太が立っていた。なにか罰が悪そうに立っている涼太を見て、あたしは今日は女の子とデートじゃないんだ、と軽い感じで聞いてみる。涼太は無言でうなづいた。それから、ひさしぶりに涼太を家に上げた。今日は偶然にも誰も家にいない。幸か不幸か。

とりあえず、氷いっぱいの麦茶を用意して、あたしの部屋へ持って行った。涼太はあたしの部屋の座布団に大人しく座っていて、あたしが麦茶を置くとありがと、とお礼を言った。今の返事からしてもそうだけど、なんとなく、涼太の元気がない気がする。そりゃあ、もう何年も幼なじみをしていると感覚でわかっちゃうものだ。

「…なにかあった?」

不意に聞いてみた。すると、涼太は下をうつむきながら、いつもの元気がどこかへ行ってしまったかのようなか細い声で話し出す。たいてい、あたしと話すときはこんなだ。それか、張り上げるような声のどちらか。最後に涼太に会ったときは、後者の方を聞いた。「男をひょいひょい部屋に上げるな」って、涼太に迫られながら怒られたっけ。あたしはいつもの冗談かと思ったけど、あのときの涼太は、見たこともないようなこわい顔だった。そのとき、涼太がひとりの男の人に見えて、あたしはこわくなった。それが、最後に会ったとき

「…俺が、いろんな子とデートしてるって、知ってるよね?」
「…うん。よく見るよ」

会話は、ぽつりぽつり、と途切れ気味だったけど、あたしは涼太がすべて話してくれるのを待った。

涼太は、昔から断ることが苦手な性格だ。モデルを始めてからは告白されることが多くなったことで、その性格が裏目に出てしまうようになった。軽い告白ならば一度断ることができるらしいのだけど、しつこく言われてしまうと断ることができなくなってしまい、結果受け入れてしまう。しかし、結局は相性が合わなくて一日で終わってしまう。なんて関係が多いのだという。とっかえひっかえしてたのは、そういうことだったのか。と、納得したくなくとも無理やり自分で納得させた。なにより、こういうことは今に始まったことじゃない。昔から、そんなこと続きで、なにが悪いのかなんて判断がつかなくなってしまったのだ。

「でも、ほんとに好きでもないのに付き合うなんて、その子たちにも失礼だよ。ちゃんと断んなきゃ」
「う………わかってるっスよ…。でも、あんな一生懸命に告白する子の気持ちとか、あんま無駄にしたくなくて…」

涼太は優しい。それは昔からよく知っていることだ。だからこんなにも傷ついて、一人でがんばってた。あたしは今にも泣きそうな涼太に、つらかったね、よくがんばったね、と頭を撫でた。



「………ちがう」

急に、視線が下向きになった涼太は、うつむいたままか細い声で言った。すると、いきなり撫でていたあたしの手をつかんで、ひっぱられた。ひっぱられた手は自然とあたし自身をも巻き込んで、気が付いたら涼太の懐の中に埋まっていた。

「りょう…」
「俺はもう、だれかのためとかじゃなくって、名前だけに優しくしたいんだよ」

いつもの口調が消えた。涼太の口調がなくなるときは、だいたい怒ってるときとか、真剣なとき。この前は怒ってたときだけど、今回は真剣なほうだ…。そう思うと、あたしは急に緊張してきて、幼なじみのはずの涼太が、知らないだれかみたいに思えて。持ってきた麦茶の氷が、からんと音を立てた。

2012/07/22